トリクルダウンから「ボトムアップ」へ。活力ある経済の持続のために必要なパラダイムシフト

田中信一郎
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 2019年3月13日に開かれた立憲民主党の議員勉強会にて、「ボトムアップ社会への転換で活力ある経済の持続を実現する」というタイトルで講演をしました。有権者の間で、経済政策についての議論が深まることを期待し、前回に引き続き、概要を紹介します。(参照:今回分資料

所得と人口の減少が民間消費の低迷を導くとの仮説

 この仮説は「人々が所得減少により潜在的な消費意欲を満たせていない」という大前提に立ち、人々の消費能力を高める政策を展開します。ただ、人口減少のため、潜在的な消費意欲を満たすだけでは一定の需要増までもたらしても、やがて需要減少になります。そのため、人口減少を踏まえた政策を合わせて展開する必要があります。  第一の政策は、収入の壁を取り除く所得政策です。必要な生活費を確保できる税制・最低賃金等に改善し、家計の消費を拡大します。健康で文化的な最低限度の生活に要する費用に課税しない考え方です。消費性向の高い低所得者の可処分所得が増加するため、民間消費の増加が期待されます。  第二の政策は、就労の壁を取り除く共生政策です。就労を希望する人々の条件を整え、家計の消費力を高め、企業の生産力を確保します。世帯収入の増加に加え、労働力不足による企業の成長機会の逸失を抑制できます。生産側と消費側を同時に強化できる一石二鳥の政策です。  第三の政策は、時間の壁を取り除く労働政策です。長時間労働の抑制と平日休暇の促進により、消費を底上げし、消費ピークを平準化します。平日と休日の需要ピークの平準化により、サービス産業の資本利用率(生産性)の向上が期待できます。一方、多すぎる(と思われる)祝日の減少を合わせて検討する必要もあるでしょう。  第四の政策は、成長の壁を取り除く市場政策です。公正な市場制度・労働制度を構築し、生産性の高い企業の成長を後押しします。公正・透明・トータルコスト最小化(企業・社会・個人)の観点から、総合的に市場のあり方をデザインし直すことが必要です。  第五の政策は、未来の壁を取り除く環境政策です。社会の持続可能性を高める投資を促進し、人々と企業の将来展望を明るくします。炭素(エネルギー)生産性を高めることで、労働生産性を改善し、産業の収益性の改善・日本経済全体の成長につながります。  ただ、どうしても安倍政権後の政権を確実に困らせるのが、異次元の金融緩和と大規模な財政出動の出口です。本来であれば、安倍政権と黒田日銀が出口まで示すべきですが、そこに期待するのは難しいところです。  最悪の事態は、GDP統計等の粉飾や株価操作等が実際に行われていて、政権交代でそれらを止めることになった瞬間、国債価格や株価等が暴落することです。よって、アベノミクスに代わる経済政策であっても、異次元の金融緩和と大規模な財政出動を急に止められません。今の日本には、どのような政権であっても、ある程度の金融緩和と財政出動を続けるしか、選択肢はないのです。

首相交代か、政権交代か

 ボトムアップ社会へと経済政策を転換するに当たり、与党内での首相交代で可能なのでしょうか、それとも与党と野党の入れ替わる政権交代が必要なのでしょうか。  結論から言えば、政権交代が必要です。なぜならば、経済政策の違いは、国家観等の基本認識の違いから生じ、同じ政党内での政策変更の枠を超えているからです。  安倍政権は「強い国・立派な国が国民を守る」という国家観に基盤を置きます。安倍首相は、13年2月の最初の施政方針演説で「強い日本」「次の世代の日本人に、立派な国、強い国を残す」「世界一安心な国」「世界一安全な国」をめざすと述べました。  他方、ボトムアップ社会と整合的な国家観は「豊かな生活を送る個人が集まり、いい国をつくる」というものです。これは、個人主義・民主主義・立憲主義という日本国憲法の考え方です。  また、安倍政権は「自助で生活し、国家のために協力する」という国民観を有しています。前出の施政方針演説で、安倍首相は「自立した個人を基礎としつつ、国民も、国家も、苦楽を共にすべき」「誰かに寄り掛かる心を捨て、それぞれの持ち場で、自ら運命を切り拓こうという意志を持たない限り、私たちの未来は開けません」と述べています。  他方、ボトムアップ社会と整合的な国民観は「公助が備わることで、共助が機能し、自助できる」というものです。これも、積極的自由・社会権という日本国憲法の考え方です。  それから、安倍政権は「経済成長が社会の改良をもたらす」という社会観を持っています。前出の演説で、安倍首相は「私たちは、世界一を目指し、経済を成長させなければならない」「それは、働く意欲のある人たちに仕事を創り、頑張る人たちの手取りを増やすため」と述べています。  他方、ボトムアップ社会と整合的な社会観は「個人の可能性を引き出す公正な仕組みが社会の改良をもたらす」というものです。これは、自由民主主義(普遍・平等・透明・法治)と保守主義(漸進・質実・謙抑)の考え方に則ります。  そして、安倍政権は「自由な企業活動と科学技術が経済成長の源泉」という経済観を有しています。前出の演説で、安倍首相は「世界から日本に、優れた企業や人を集め、日本をもう一度成長センターにしていく」「世界で一番企業が活躍しやすい国」「世界で最もイノベーションに適した国」をめざすと述べています。  他方、ボトムアップ社会と整合的な経済観は「社会の改良が活力ある経済の持続の源泉」というものです。これは、SDGs(国連持続可能な開発目標)の考え方と合致します。  このように、単なる経済政策の違いにとどまらず、国家観等の根本的な認識から違いますので、同じ政党内での首相交代では、転換が困難で、政権交代が必要となります。
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「人口減少」時代のアプローチが必要
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