90年代、マスメディア時代の「政治」と「言葉」を流行語大賞から紐解く <「言葉」から見る平成政治史・第3回>

97年、金融自由化の始まり。「日本版ビッグ・バン」

●1997年「日本版ビッグ・バン」(トップテン)松井道夫(松井証券社長) “金融自由化が現実のものとなり、日本の金融・証券業界はグローバル・スタンダード(国際標準)の下で国際レースに参加しなければならなくなった。そのためには、従来の“護送船団”方式を抜本的に改革する「日本版ビッグバン」が絶対に必要とされたが、金融業界の改革は遅々として進まなかった。そんな中、株の売買手数料を一挙に50%引き下げ、「日本版ビッグバン」の実質第1号と国内外から高く評価されたのが松井証券である” (出典:「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン 新語・流行語大賞」第14回1997年授賞語)  我々は今も昔もグローバル・スタンダードを過剰に好み、政治も、行政もなにかあれば「グローバル・スタンダード」を金科玉条のごとく口にする。グローバル・スタンダードに過剰適応しようとする一方で、非スタンダードゆえの強みや特徴を容易に捨て去ろうとするから不思議である。優位に立つことができないグローバル化にどのような意味があるのかは定かではないが、とにかく幻想の「グローバル・スタンダード」への形式的適応に邁進するのは今も昔も変わらない。

98年、長期不況への危機感。「日本列島総不況」

●1998年(トップテン)「日本列島総不況」堺屋太一(経済企画庁長官) 「小渕内閣の経済企画庁長官に就任した堺屋は、日本経済の現状を“停滞”ではなく「低迷」と断言した。さらに全体状況を「日本列島総不況」と、極めて明快な言葉で表現した。小渕内閣の“アクセサリー”と揶揄された堺屋だが、“流行作家”らしい表現力で一矢を報いた。“エコノミスト”としての本領発揮がなるか、世の中の注目を一身に集めた” (出典:「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン 新語・流行語大賞」第15回1998年授賞語)  山一證券など有数の金融機関の不正発覚や破綻も相次ぎ、長期不況の常態化に対する危機意識が鮮明になった。公的機関に目を向けても、大蔵省の大型接待汚職事件が発覚する。  そうはいっても「失われた10年」がまさかその後、10年、20年と続き、平成後半のなかでまさに社会学者宮台真司が述べたような「終わりなき日常」と化するとは考えられていなかったはずだ。  戦後社会が築き上げてきたまさに政治、経済、社会の日本型モデルの綻びが目立つようになった。ただしそれだけに今から振り返るなら、少子高齢化対策や働き方改革等の手を打っておけばよかったのではないかと思えてならないが、ほぼ無策のままであった。後の祭りというものである。結局、それらが本格化するのは平成の末まで待たねばならなかった。

99年、メディア変革の萌芽。「iモード」

●1999年(トップテン)「iモード」立川敬二(NTT移動通信網・代表取締役) ”1999年は小文字の「i」を冠した商品が続々登場した。「i」は「internet(インターネット)」の「i」だが「information(情報)」「interrated(統合)」の「i」ともいう。1998年に発売されたアップル社のiMacが発祥だが、翌年日本ではカメラや本などインターネットとは直接関係ないような商品も巻き込んだ一大「i」ブームとなった。その火付け役となったのが、NTTドコモが始めた、インターネットに接続できる携帯電話新サービス「iモード」のヒット。” (出典:「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン 新語・流行語大賞」第16回1999年授賞語)  1999年のパソコン普及率は29.5%、インターネット普及率が19.1%。95年よりかは普及したが、まだまだパソコンもインターネットもマイナーな存在であった。そこにさっそうと登場したのが、iモードだった。携帯電話でインターネットにアクセスするという新しいチャネルを切り開くのであった。それによってショートメッセージではなく、電子メールを携帯電話で送ることができるようになり、いまの水準から比べれば遥かにチープだが、ウェブブラウズが可能になった。重くて、遅いパソコンを開かなくても、インターネットを常時携帯できるようになったともいえる。  現在ではインターネットアクセスはすでにスマートフォンからのアクセスがPCからのそれを上回っている。その原点といえる。世界ではじめての携帯電話「iモード」だったが、既に2010年代半ばに新規機種の開発が終了し、スマートフォンにその地位を譲ることになった。現在の若い世代が「i」聞いて想起するのは、「iモードではなく」「iPhone」の「i」だろう。だが、20年前には「i」といえば、「iモード」を思い浮かべたものである。  iモードに代表されるインターネットアクセス可能な携帯電話が人々の主要なコミュニケーションデバイスになったことで、メディアの力学、コミュニケーションの様式、マーケティングの重心は大きく変容する。だがそれらの変化が本格的に政治に影響するようになるのは、やはり2000年代以後のことなのである。 <文/西田亮介 Photo via Good Free Photos> にしだ りょうすけ●1983年、京都生まれ。慶応義塾大学卒。博士(政策・メディア)。専門は社会学、情報社会論と公共政策。立命館大学特別招聘准教授等を経て、2015年9月東京工業大学着任。18年4月より同リーダーシップ教育院准教授。著書に『メディアと自民党』(角川新書)、『なぜ政治はわかりにくいのか』(春秋社)など
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