90年代、マスメディア時代の「政治」と「言葉」を流行語大賞から紐解く <「言葉」から見る平成政治史・第3回>

91年、カネと政治が問題化する中の「重大な決意」

●1991年(流行語部門・銀賞)「重大な決意」石破 茂、簗瀬 進、今津 寛、佐藤謙一郎 “リクルート事件、共和事件など大型疑獄事件の続発を受け「政治改革法」が上程されたが廃案となった。これに抗議する自民党改革派若手4人衆に対して、10月1日夜半、海部首相の口からこのセリフが飛び出し、政界を激震させた。突如として起こる“海部降ろし”の大波に、あっさり首相の座を追われ、政治センスの無さを天下に知らせただけの結果となった。” (出典:「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン 新語・流行語大賞」第8回1991年授賞語)  相次ぐ政治とカネの問題の解決の先行きが見えなかったことに対して、自民党内で当時の若手たちが問題提起を行い、結果的に自民党分裂に至る。石破茂は非自民連立政権の時代を経て、再度自民党に合流し、再び自民党総裁の座を狙おうかというところまで上り詰めている。それに対して、今の自民党の若手はどうか。  確かに当時の政治とカネとは性質は異なるし、派閥の存在感も同様だ。だが、安倍政権末期になって統計不正や自衛隊日報の隠蔽疑惑、森友学園問題に加計学園問題などここにきて疑惑は枚挙に暇がない。大臣も経験した自民党重鎮は政治資金収支報告の辻褄が合わず、何度も修正を繰り返している。  ところが政治家の言葉はすっかり軽くなり、整合性が取れなかったとしても平然としている。小泉進次郎グループなどを除くと、自民党党内若手の存在感は薄く、全くといっていいほど独自の言葉も聞こえてこない。国会議員は多くの場合政党に所属するが、しかし憲法第四十三条に「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と記されるように、全ての国民を代表する存在だ。  国民益に叶うような行動と言説を期待するとともに、時と場合によっては当時の若手4人衆のように政府政党の変革も辞さないような気概をもってもらいたい。

92年、米民主党政権で期待された「Time for change」

●1992年(特別語部門・特別賞)「Time for change」アメリカ合衆国大使館 “クリントン次期米国大統領の発言。1992年の米大統領選は、圧倒的不利を伝えられていたビル・クリントンが勝利した。「変革」という“錦旗”を高々と掲げたクリントンを米国民が熱狂的に支持したのである。アメリカという国と、国民に、理屈ぬきに感心し、「特別賞」とした。” (出典:「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン 新語・流行語大賞」第9回1992年授賞語)  1992年ビル・クリントンが米大統領に就任する。いつの時代も「変革」が肯定される土壌をもつ米国と、「安定」を軸に据えながら、右隣の「変革」を羨望の眼差しで見つめてきた我々の社会のコントラストが鮮明に浮き上がる。クリントン政権下において、IT企業の台頭などで経済が息を吹き返す。いわゆる「ニュー・エコノミー」の台頭である。  もちろんITバブルは後に日本にも波及するが、日本経済には本当の意味で、新興経済主体が経済の活力を牽引する「ニュー・エコノミー」の時代は到来していないのではないか。それどころか超克すべき対象だったはずの護送船団方式が、権限集中とともに官邸主導のトップダウンを名目に息を吹き返し、市場原理とは異なる選択と集中を行っているようにさえ見えてくる。

93年、浮き彫りにされた業界保護。「規制緩和」

●1993年(流行語部門・金賞)「規制緩和」青木定雄(MKタクシー会長) “世界の批判を浴び続ける日本の官庁の“行政指導”。政・官・業一体になった、護送船団方式による馴れ合いの業界保護は、「規制」に安住し、経済の発展を阻害するとの指摘が多い。運輸省の行政指導に一人で立ち向かい、12年間の苦闘の末「タクシー値下げ」を果たした京都・MKタクシー(青木会長)は「規制緩和」の“実体”を広く世に知らせた功績があった。” (出典:「『現代用語の基礎知識』選 ユーキャン 新語・流行語大賞」第10回1993年授賞語)  2012年に再び政権に帰り咲いたときの安倍政権の経済政策の名前は「アベノミクス」。そしてそれを構成する「三本の矢」と呼んだことはかなり忘却されているようにも思われる。 「三本の矢」を構成したのは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」だった。三本目の成長戦略の一丁目一番地が岩盤規制の突破であった。よく知られるとおり、日本のタクシーは強固な規制が存在する。個人の乗用車を使った有償の人の輸送、いわゆる白タクは違法行為で、Uberのように世界的には広まったライドシェアも日本では未だ違法行為のままである。国家戦略特区の有効性もいわれるが、ライドシェアと同様にいわゆる一般の住宅への宿泊する民泊が2018年に住宅宿泊事業法によって部分的に合法化された。営業日数に180日の上限規制が設けられ、事業者が利益を上げにくい仕組みになっている。  合理性を理解しがたい規制「改革」に至った理由は従来のホテルや旅館等の事業者と利益団体による働きかけの影響が大きい。規制改革が行われたものの、新興事業者が利益を上げにくい環境になっている。言い換えれば既存事業者にとって有利だ。  MKタクシーが規制官庁のみならず同業者から有形無形の多くの嫌がらせを受けたことはよく知られている。日本では不文律に挑戦するとしばしば高い代償が求められる。岩盤規制ならぬ空気の規制改革は未だ手付かずのままだ。
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バブル崩壊が日常に押し寄せ、一変した若者の日常
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