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絶頂期から転げ落ち、ネット世論操作大国となったベネズエラ
1900年代後半、治安が良く政治的にも安定し高いGDPを誇っていた国が、2000年代に入り一転して経済的に衰退しGDPが下がり不正や汚職が蔓延するようになった。そして現政権では元首に取り入ることで利益を得、保身を図る者ばかりになってしまった。
日本の話ではない。
ベネズエラのことである。世界では似たようなことが起きている。
今の日本でベネズエラと聞くと、「なんかヤバいことになっている国」というイメージを持つ人が多いと思うが、1900年代後半は黄金時代だった。ベネズエラの歴史を紐解くことは本稿の趣旨ではないので詳細は割愛するが、絶頂期から一気に転がり落ちたことと、その原因が社会主義を信奉する元首ウゴ・チャベス大統領の経済政策にあったことだけ覚えておいていただきたい。
ベネズエラは元は親米路線だったが、チャベスが大統領になってから反米になり、社会主義路線となった。以後、ベネズエラはキューバとロシアに近い国となった。チャベス大統領の死後にマドゥロが大統領となったが、事態は変わらず悪化するばかりだった。
ますます経済は悪化し
ハイパーインフレを引き起こした。治安も悪化の一途である。すでに国民の支持も失われており、国際社会からの批判も厳しくなる一方だ。数百万人の国民が国外へ脱出した。
また、2018年2月には
ペトロという、同国の石油(ロイターなどのレポートによると、石油が埋蔵されているとされている地域に石油がある様子はないらしいが)に裏打ちされた仮想通貨を立ち上げた(参照:
HBOL)
しかしアメリカで取引禁止にされ、ほとんどの取引所でも扱われていない状況だが、ベネズエラ政府は
年金などを強制的にペトロに変えている。昔の第二次世界大戦時の
日本の軍票を彷彿させる状況だ。
2019年1月23日には、国会議長のグアイドーが暫定大統領を宣言し、すぐにアメリカ、カナダ、ブラジル、およびコロンビアなどのラテンアメリカの多くの国が承認した。
国際社会のグアイドー暫定大統領への支持は広がっており、マドゥロ政権は危機的状況に陥り、激しい抵抗を試みているようだ。グアイドー暫定大統領はブラジルからの援助を取り付けたが、物資がベネズエラ国内に入るのを防ぐためにマドゥロ大統領はブラジルとの国境を閉鎖した。
ちなみに、同国とキューバとの関係は深く、2013年10月16日のフォーブス誌(”U.S-Style Personal Data Gathering Is Spreading Worldwide”)ではベネズエラ国民の個人情報がキューバに送られ、解析されていることが暴露されている。
興味ある方は調べて見るとこの国の変遷に驚くだろう。
あまりご存じのない方もいらっしゃるかもしれないが、ラテンアメリカにはハッカーもたくさんいる。
2016年3月31日のBloomberg Businessweekは、ラテンアメリカを股にかけて活躍したハッカーグループのリーダーAndrés Sepúlvedaの記事“
How to Hack an Election”を掲載した。
2005年から活動を開始し、ハッカーのチームを率いて選挙戦略を盗み、SNSを操作し、敵対候補にスパイウェアを仕込み、依頼者を当選させるサポートを行う。2012年のメキシコ大統領選の時の報酬は60万ドルだったという。この記事によれば彼はベネズエラの大統領選にも関与していた。
2018年8月にフランス政府が公開した“INFORMATION MANIPULATION A Challenge for Our Democracies”によれば、そもそも西側諸国のラテンアメリカ諸国への関心が比較的低かったことから、2000年代半ばから中国、イラン、シリア、ロシアなどが政治、経済、メディアを使って干渉を開始していた。ロシアはエネルギー、軍事、貿易、メディアで干渉があったという。
2009年に始まったロシアのプロパガンダ媒体であるRTのスペイン語版のオフィスは、アルゼンチン、ベネズエラ、キューバ、ニカラグア、マドリッド、マイアミ、ロサンゼルスに設置された。RTスペイン語版のフェイスブックには580万人が登録している(英語版490万人よりも多い)。同じくロシアのプロパガンダ媒体のスプートニクのスペイン語版は2014年に開始された。RTはベネズエラに本社を置く中南米向け放送TeleSURと提携している。