SNSによって脆弱になった民主主義が、世論操作とハイブリッド戦の餌食になる
3.ネット世論操作の不可視化の進行
ロシアのIRAを典型として、さまざまなネット世論操作部隊はSNSでトロール、サイボーグ(プログラムに支援を受け、人が運用するアカウント)、ボット(プログラムで運用されるアカウント)を操作し、広告を出稿し、インフルエンサーを利用して作戦を行ってきた。その作戦においてもっとも重要なことは現地の人間を自分が作戦に参加していることを気づかせないまま巻き込み、自然発生したものとして根付かせることだ。
だが、その手法は知れ渡り、検知され、排除されるようになった。そこで作戦をより不可視にし始めた。
・現地の人間をリクルート
現地の人間をリクルートして作戦を遂行させる。雇われる側は作戦の目的を知らないこともある。人間が操作しているアカウントであること、現地の人間であることから検知は難しくなり、場合によっては規約上アカウントを排除することも難しくなるだろう。
・目に触れにくいメディアを利用
フェイスブック、インスタグラム、ツイッターの場合、そこでの活動は特別に鍵をかけたり、見られたくない相手をブロックしたりするなどしないと、誰からでも見えてしまう。WhatsAppなど一般から見えないメディアを使ったり、ディープウェブを使ったりするなど見えにくいメディアを利用するようになっている。
この傾向はこれからも強まり、なにが起きているかと補足することは難しくなるだろう。不可視化することは難しくない。そして、日本のLINEは格好のツールになるだろう。
ネット世論操作は民主主義、特に不完全な民主主義の脆弱性を突く。だが、前出の『民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道―』にみ書かれているようにこれまで民主主義が理想的な形でうまく運用されてきたわけではない。明文化されず、規制や法律になっていない部分が民主主義を守ってきたのが皮肉な現実だ。
システムとしての民主主義は定義通りに運用できないものであった。それを定義にはない人間の良識や良心が支えてきた。新しい時代になって、その良識や良心がもはやかつてのようには機能しなくなり、民主主義は崩壊しつつある。だから、手を尽くしてなんとかしようとしても建て直すのは難しい。なぜなら定義の外の部分が崩れたからだ。定義通りに民主主義が行われるように努力するのは徒労になる可能性が高い。なぜなら、うまくいっていた時も、そういではなかったからだ。
今、すべきことが新しいシステムとルールの構築であり、機能不全に陥った仕組みの再生ではない。
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」
<取材・文/一田和樹>
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている
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