次の時代の価値観は「墓は要らない」「墓には入りたくない」

歴史の中では、墓に入ることが“当たり前”ではなかった

51140324_2164542700235165_5941763009754955776_n

イラスト/髙坂勝

 墓も同じだ。歴史の中で、すべての人が墓に入ってきたわけではない。よく考えればわかることだ。同じ東アジアでも、火葬して川や海に流していた例もあるし、屍をそのまま川に流す水葬とか、木々の上で風化させる風葬もある。それを不衛生とか野蛮とか可哀想と思うだろうか? 生態系の循環や食物連鎖で考えると、むしろ理にかなっている。  日本では、墓に石塔を立てるようになったのは江戸時代以降。それ以前は各地によって違ったが、土葬が中心で、火葬の地域でも石塔を立てなかった。そのため墓参りの習慣もなかった。沖縄の一部では、海の岩場や洞窟で野にさらす「風葬」もあった。墓に入ることは、伝統でも、当たり前でも、常識でもない。  田畑の後背地にある高台に墓を見かけることがよくある。現代では土葬ではないのだろうが、本来の自然の循環からすれば、合理的な場所に埋葬されている。違う生き物たちの肥やしとなって、自らの田畑を見渡せる永遠の循環に身を委ねるなんて、素敵じゃないか。  俺も、死んだら自分の田んぼに埋めてほしいと思うことがあるから、納得がゆく。だが実際は、今の日本ではそうもいかない。だから焼いて骨を海に撒いてもらえばいいし、生前にその費用だけを誰かに託して死ねたら最高だ。  人の体は自然の中の循環物だから、すべてを自然に戻すのが本当は当たり前のこと。土に触れる暮らしをしていると、不自然と自然の見分けがつくようになる。裏返せば、自然の摂理から離れるほど人は不自然な方向に向かう。  江戸期に墓の概念が生まれたのは、一部の人々が兵農分離で土から離れたから。不自然を不自然と感じなくなる過程で形成されたであろうことが想像できる。権力者や富裕者が大きな墓に入りたがるのも、土や自然の摂理から離れた、不自然な愚かさに気づかなくなるからだろう。

人間だけが自然の循環の外にいていいわけがない

墓地イメージ2 そんなこんなで「墓はいらない」ということを自分のブログに書いたら、大手企業を辞めて京都府綾部市に移住して田畑を耕している、平田佳宏さんが次のような反応をしてくださった。 「亡骸はそのまま野原に晒して鳥や獣の餌にして、虫や微生物の手で土に還してもらいたい。そうして自然の循環の中に入りたい。子や孫やそれに続く世代に墓の守りをさせたくない。  人間以外の生き物は墓など作ることはないが、だからといって成仏できないなんてありえない。これまで何億年と生命は弔われることなく自然に還って循環してきたのだ。  昔は人が亡くなると川の上流の方に土葬した。そうすると下流の田畑や森がよく育ったのだと聞いた。きちんと土に還るというのはそういうことだ。  人間だけが自然の循環の外にいていいわけがない。命を奪って生きてきたのなら、死んだのちは我が身をほかの生き物のために提供することが務めであり、自然の摂理だと思う」
次のページ
「墓を守る」は薄れていく
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会