なぜクラフトジンブームが起きたのか? その背景には200年ぶりに復活したある免許の存在があった

クラフトジンの魅力はボタニカルにあり

約200年にわたって閉ざされていたクラフトジンの扉。それを開いたシップスミスの創業者たち

 すると、あっという間にクラフトジンは大ブームに……と言いたいところだが、その道のりは決して平坦なものではなかった。最初の蒸溜器を購入するのに私財を投げ売り、ようやく完成したクラフトジンをスクーターに乗って高級ホテルやデパートに営業する日々がしばらく続いたという。  全財産をはたいて購入した銅製の蒸溜器は、「プルーデンス」。「倹約」を意味するというから、イギリス人の皮肉、ここに極まれりだ。  その後、シップスミスの蒸溜器は3台に増え、蒸留所も移転。今ではイギリスのプレミアムジン市場で2番目の規模にまで拡大した。前出のクラフトブーム全般も含め、ホール氏は次のように分析する。 「ユーザーの皆さんは、誰が、どのように、どこで作っているかという部分に注目して、オーセンティシティを求めているのだと思います。私たちも『他にはないものを』という観点から、ロンドンの伝統的なクラフトジン作りにこだわっています」  今年一月に都内で行われたシップスミスのテイスティングセミナーでは、蒸溜法の裏側を創業者の3人が自ら解説してくれた。不純物を取り除く銅製の蒸溜器、蒸溜プロセス中盤の一番よい部分(ハートカット)のみを抽出するといったこだわりは、たしかにクラフト酒類を求めるユーザーにとって魅力的に映るだろう。  また、あまりハードリカーを飲まないという方は、クラフトジンに含まれるボタニカルに注目してみるのもいい。かくいう筆者も、普段はカクテルぐらいでしかジンを飲まないのだが、今回のテイスティングセミナーで4種類のボタニカルを嗅いでみると、その香りの深さに驚かされた。  シップスミスには10種類のボタニカルが使われているのだが、ロンドンドライジン最大の特徴であるジュニパーベリー、コリアンシード、レモンピールとリコリスの根を嗅いだあとに飲んでみると、しっかりそれらの香りが感じられる。  飲み口もフルーティなので、今後クラフトジンブームが加速すれば、「割り物に使う強いお酒」というイメージはガラッと変わりそうだという印象を受けた。
次のページ
ジャパニーズ・クラフトジンが静かなブームに
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会