・デンマーク
デンマークは反ロシアの傾向が強い。ほとんどのデンマーク人は、さまざまな理由でロシアに否定的だ。人権侵害、公共物の私物化、私物の公共化、旧ソ連邦時代に領土であった国への国内干渉、反西側、反EU、反NATOといった具体的な理由もあるが、理由がなくてもロシアを嫌う風潮がある。レポートを読む限り、感情的な嫌悪感のようだ。
そのため
ロシアからのネット世論操作攻撃への耐性はあるが、ジャーナリストや研究者たちはロシアに対して古い考えを持っており、新しいロシアの戦略を理解していない傾向がある。本格的にロシアが攻撃してきた時の態勢に不安が残る。
・オランダ
オランダはロシアとの距離感が微妙だ。
ある程度の関係を維持しながら、影響を受けないようにする難しいバランスを取らなければならないようにレポートには書かれている。その理由はいくつかある。
オランダはロシアとの経済的な結びつきが強い。2013年の段階ではロシアはオランダの10番目の輸出先だった。しかし2014年にロシアで起きたオランダ食品のボイコットやEUの対ロシア制裁措置による花と果物の輸出減により輸出量は2013年から2017年で20%も減少した。
ロシアからオランダへの輸出ではエネルギーが重要な役割を果たしている。現時点ではオランダは自前のガスが豊富に産出しているが、近い将来それが枯渇することがわかっており、その対策が立てられていない。ロシアに頼らざるを得ない状況だ。すでに現在でもロシアから供給を受けている。
ロシアのネット世論操作部隊IRAがオランダをターゲットにした活動を行っていることがわかっている。
ウクライナのEU参加の投票の際には反対を煽るようなフェイクの動画を流して世論を誘導していた。また頻繁にツイッターで
MH17(*)に関するフェイクニュースを流し、ロシアの関与を否定している。(*参照:
マレーシア航空17便撃墜事件–wikipedia)
ロシアの手は政党にも伸びており、オランダの政党、
保守系右派の民主主義フォーラム(FVD、Forum voor Democratie、Forum for Democracy)、民族主義的右派のPartij voor de Vrijheid(PVV、Freedum Party)、左派のSocialist Party(SP)などが影響を受けている。民主主義フォーラムの台頭は日本でも報じられており、反EUの動きが加速する危険をはらんでいる。(参照:
オランダ、台頭するポピュリズム新世代–日経新聞)
・ノルウェー
ノルウェーはロシアと国境を接している数少ないNATO加盟国のひとつである。産油国であり、エネルギーでのロシアへの依存がない。政治的な分裂もなく民族的、社会的な対立も少ない。教育水準も高く、メディアは多様である。全体としてロシアへの共感は低いとされている。
レポートによれば
2014年以降、少なくとも3回ロシアからの干渉があったことがわかっている。2015年にロシアのプロパガンダ媒体として有名な
スプートニクがノーベル賞の信用を傷つける偽造文書を公開した。同じ年の後半、ノルウェーとフィンランドは前例のない多数の移住者が自転車でロシア国境を越えて来た。国境のロシア側は通常厳しくチェックされるが、この時はロシアの国境警備隊が国境を越える移住者を手伝っていた。政治的な混乱を増幅させる狙いだったようだ。その他に
スバールバル諸島のノルウェーの保有権への疑惑の種をまいたり、
ノルウェー政府や組織とメディアの信用を失墜させようとしたりしている。
こうしたロシアの動きを支えるのは、ノルウェーのインフルエンサーと、ロシアのインフルエンサーの2つのグループだ。
前者=ノルウェーのインフルエンサーは、ロシアの政策を指示する主要政党の一部の政治家、地域のグループ、マスメディアやブログの一部とされている。ロシアからの直接の関与はないようだが、ロシアを支持する動きをしている。
ただしロシア支持の動きの圧倒的多数は傍流であり、組織だった動きは見られない。彼らはネットでSNSやブログ、サイトを作成して広げており、代表的なサイトは
、The Herland Reportと
Steiganである。ロシアに共感する者は極右、極左におり、存在感を増している。
主要メディアのいくつか、特に左派の
Klassekampen は親ロシア的発言を行ったことがある。NATOやウクライナに関してのニュースでは、いくつかがウソか不正確であることが暴露された。Klassekampen はそれにもかかわらず、政府補助金を受け、部数を伸ばした。およそ2万4千部でベスト10にランクインしている。
ロシアのインフルエンサー=後者は、主にロシア大使であり、活発に活動し、ノルウェーの原住民とロシアからの移民に影響を与える発言をしている。親ロシアの草の根運動の支援を行ったり、繰り返しSNSで発言したりしている。
レポートによると、ノルウェーは透明性の高い国だが、3つの脆弱性がある。
1.伝統的な抑止と保障のバランスをとろうとしているおり、ロシアの素早い行動への対応に苦慮している。
2.政府によるネット世論操作への組織的な検知、分析態勢がない。
3.ネット世論操作に関して国としての調査が行われておらず、国民の認識もまだ低いレベルである。
なお、本レポートではあまり触れられていないが、ノルウェー政府はスキャンダルが続き、連立政権内部での亀裂も広がっているようだ。今後の動きが気になる。