黒川名誉教授緊急寄稿。疑惑の被ばく線量論文著者、早野氏による「見解」の嘘と作為を正す

学術的な場での議論から逃げる早野氏

 最後に、「見解」の1ページ目の、「以上述べましたように、論文の重大な誤りについては、JRP誌という学術的な場での議論に向けて進みつつある段階です」について私の考えを述べて、この論考を終わることにする。  学術的な議論は、論文に対する批判、そして著者の応答というサイクルを進めることにほかならない。その第一歩である、批判論文に poiy-by-point、すなわち指摘された項目ごとに答えることを拒否しているのに、どうして、「学術的な場での議論に向けて進みつつある」と言えるのか、早野氏にははっきりと答えていただきたい。 *注:著者の第1論文と第2論文の両方に、JRP誌からExpression of Concern (以下 EOC)がだされたことを報じたRetraction Watch(研究不正を見張る国際的サイトのこと)に対してJRPを出版しているIOP(Institute of Physics)のspokespersonが次のように発言している。なお、EOCとは「懸念の表明」というものであり、論文誌の編集部が論文の信頼性に問題がある可能性について、読者に注意を喚起する文のことである。 “(…)due to the nature of the investigation(s) the authors would need to await the outcome prior to re-analysing the data to correct the mistake by way of a potential corrigendum.”  意訳すると「研究不正の調査が進んでいるので、著者がデータを解析しなおしcorrigendumという形で誤りを訂正することは調査の結果がでるまで待たなければならない」となる。なお、本文中に示したように、corrigendumは簡単な正誤表のことであり、論文の書き直し rewriteのことではない。 *補足:【見解中の第一論文についての言及について】 「見解」の第1項に「なお念のため、この誤りは第二論文の累積線量の導出に限ったものであり、第一論文の結論には解析上の誤りは見出されておりません。」と書かれている。これは奇妙な文章である。  累積線量が議論されたのは第2論文においてであり、第1論文では累積線量など論じられていない第1論文に第2論文のような解析上の誤りがないのが当たり前である。  論文誌に論文を投稿する研究者は、自分の論文に誤りがないと考えるから投稿するのである。論文が発表された後は、論文の内容が正しいか正しくないかを決めるのは著者ではなく科学者のコミュニティである。このようないわずもがなの文章が含まれているのは、科学コミュニティの外に対する発信であると考えられる。  案の定、1月25日に開かれた放射線審議会で、この「見解」が読み上げられ、放射線審議会の事務局は、第1論文について「学術的な意義について全否定されるものでない」と説明している。このことについてはHBOLの牧野氏の論考を読んでほしい。 <文/黒川眞一> くろかわしんいち●高エネルギー加速器研究機構名誉教授。1945生まれ。68年東京大学物理学科卒、73年東京大学理学系研究科物理学専攻を単位取得退学。理学博士。高エネルギー物理学研究所(現・高エネルギー加速器研究機構)助手、同助教授、同教授を経て、2009年に高エネルギー加速器研究機構を定年退職。11年にヨーロッパ物理学会より Rolf Wideroe賞、2012年に中華人民共和国科学院国際科技合作奨受賞など。専門は加速器物理学
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