黒川名誉教授緊急寄稿。疑惑の被ばく線量論文著者、早野氏による「見解」の嘘と作為を正す

黒川眞一

早野・宮崎論文への批判はこうして受理された

 学術論文誌に発表されている論文の批判は、通常、Letter to the Editor という論文の形式をとる。学術論文の批判を学術論文で行うことは、科学の世界のルールであり、その批判に対して学術論文をもって応答することもルールである。  私のLetter to the Editor、 ‘Comment on ‘Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5 to 51 months after the Fukushima NPP accident (series): II. Prediction of lifetime additional effective dose and evaluating the effect of decontamination on individual dose’(参照:arXiv) の最初の投稿から、現在までの経緯は次のようなものである。 2018年8月17日:投稿が”receive”される。 2018年9月13日:第一回目の修正を投稿 2018年11月5日:第二回目の修正を投稿 2018年11月16日:論文が ”is ready to accept” となる。同時に著者に私の論文がおくられている。  “is ready to accept” とは、元の論文の著者が批判論文への応答を書き、批判論文と著者の応答を同時に論文誌に掲載するという意味である。11月16日に私の論文が ”is ready to accept” になったことを伝える編集部からのメールには、このプロセスは通常1か月程度かかるという説明が付いていた。  私の論文は、第2論文の中の単純な誤りや、数値やグラフの間に不整合が見られることを、10個ほど指摘したものである。また論文は二人のレフェリーによる査読を通って “is ready to accept” になったものである。

早野「見解」に見られる“詐術”

 それでは、「見解」の内容を点検してみよう。  まず第1項に、「JRP誌より、『第二論文に対し、S. Kurokawa氏より内容について学術的な問い合わせのLetterが届いたのでコメントするように』との連絡を受けました。」と書かれている。「学術的問い合わせのLetter」というところを、学術誌のルールをご存じない方が読むと、私が問い合わせの手紙をJRP誌に送ったように誤解されかねない。私は「学術的問い合わせ」など行っていないし、手紙など送っていない。私が行ったのはLetter to the Editor という形式の論文を投稿したことであり、それが11月16日に “is ready to accept” になったので、著者の応答を論文誌の編集部が求めたということである。このような単純な事実を表現するだけなのに、早野氏の書き方は言葉の使い方が正しくなく曖昧である。  次に、「私と主著者とで、私が作成した解析プログラムを見直すなどして検討したところ、70年間の累積線量計算を1/3に評価していたという重大な誤りがあることに、初めて気が付きました。」の部分について考察する。  私の論文では、第2論文の図6から計算した結果は図7のグラフが示す値になるはずなのに図7の値は半分しかないこと、また、この図6と図7の間の食い違いは、図6は正しいが、図7のグラフが半分に縮められていることに起因することを指摘している。  早野氏が見つけた誤りは私の指摘した不整合を説明するものではない。それゆえ、「その誤りに気付くきっかけとなった S.Kurokawa氏からの問い合わせにも深く感謝申し上げます」と書かれても戸惑うだけである。  次に第2項には、「この誤りについて、2018年11月28日に、JRP誌に『重大な誤りを発見したので、Letterへのコメントとともに論文の修正が必要と考える』と申し入れ、2018年12月13日に、JRP誌より『修正版を出すように』との連絡を受けました」と書かれている。この文章には二つの大きな問題がある。まず、「Letterへのコメントともに論文の修正が必要と考える」は虚偽を含んだ文章である。  12月の半ばJRP編集部から、私にmailが届き著者の対応を知らせてきた。  そこには、 “We believe it is appropriate to publish a corrigendum rather than point-by-point replies” と書かれていた。ここで We とは著者である早野氏と宮崎氏のことである。著者は私のLetter to the Editorで「指摘された項目ごとに答えるのではなくcorrigendumを出す方が良いと思う」と書いてある。つまり「Letterへのコメント」など書かないと言っているのである。このことからも、「早野見解」が虚偽を書いていることは明らかである。  なお、Corrigendum とは日本語では正誤表のことである。実は著者は第1論文に関してcorrigendumを出したことがある。(参照:Corrigendum: Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5–51 months after the Fukushima NPP Accident series: I. Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys –2016 J. Radiat. Prot. 37 1

Corrigendum: Individual external dose monitoring of all citizens of Date City by passive dosimeter 5–51 months after the Fukushima NPP Accident (series): I. Comparison of individual dose with ambient dose rate monitored by aircraft surveys (2016 J. Radiat. Prot. 37 1) (IOP ScienceのWebサイトより)

 これを見ていただければcorrigendumとはどのようなことかわかると思う。この場合は、「2012」と書くところを「2011」と書いたことを訂正している。70年の累積線量計算を1/3に過小評価していたという重大な誤りは、そもそも corrigendum で訂正出来ることではない。  また、「見解」では、corrigendumに対して「正誤表」や、「訂正」ではなく「修正」という言葉を使っていることに注視してほしい。「訂正」は文章を直すことなので corrigendum に適する言葉だが、「修正」はもっと広い意味を持っている。例えば、「計画を修正する」というような場合だ。早野氏のやり方は言葉の意味の幅を恣意的に用いた印象操作だと言える。
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巧妙にすり替えて発表されたJRP誌の要請
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