凍死と言えば冬の雪山での遭難を連想するが、日本で急増しているのは
屋内での凍死だ。厚生労働省の「人口動態調査」によれば、2000年から2016年までの国内の凍死者は
計1万6000人となり、
熱中症のおよそ1.5倍に上っている(2016年単年の凍死者数は1093人)。救急搬送される患者の多くは、屋内で低体温症にかかった高齢者だ。
低体温症は、皮膚ではなく内蔵など体の深部の温度が35℃を切ると診断されるが、高齢者になればなるほど自覚しにくい傾向にあり、気づいたときには手遅れになるケースが多い。背景には、高齢者の増加や貧困層の拡大に加え、孤立して暮らす高齢者が増えたことで、重症化するまで発見されにくいといった理由もあるという。
「暖房を入れれば解決するのでは?」と思うかもしれない。しかしそれより重要なことは、
暖房を入れなければ凍死するほど日本の家が寒いという事実。日本では、部屋を細かく区切って人がいるときだけ採暖する「部分間欠暖房」が一般的だ。
リビングは暖かくても、廊下やトイレなどに移動すると極端に寒くなる。その温度差で血圧が急激に変動し、意識を失う人もいる。いわゆるヒートショックだ。そのため部分間欠暖房だけでは、家の寒さが原因で健康を害する人の数は減らせない。
欧米や韓国などの一般的な住宅では、人のいない部屋も暖める「全館暖房」が当たり前で、場所によって極端な温度差が出ることはない。こうした国々では、家がしっかり断熱されエネルギーを効率的に活かしているため、全館暖房だからといって生活費を圧迫するほど光熱費がかかるわけではない。
一方で、他の国に比べて断熱性能の劣る日本の既存住宅の多くでは、全館暖房をしようとしても光熱費がかかりすぎて続けられない。世界の他の先進国と比べて、家の性能にそれほど差があるというわけだ。