ドイツでは、寒い家を貸した賃貸住宅オーナーは裁判で負ける!?
国によっては、暖房を入れた部屋が一定の温度以上であることを定める室温規定を設けているケースもある。例えばドイツでは、労働者保護の観点から労働時間中の室温規制値を設けている。作業の度合いなどにより最低温度は異なるが、おおむね17~21℃以上と決められている。これは「望ましい」というあいまいな基準ではなく、下回った場合は行政指導が入り、場合によっては雇用主が罰金を取られることもある。
また、賃貸住宅の室温をめぐって行われた裁判では、暖房期間(一般的に10月から4月の間)に、居室空間は最低でも18℃、浴室やトイレなどは21~22℃を維持しなければならないという判決も出ている。こうした温度設定が契約書に盛り込まれることも多く、この温度を下回るような寒い部屋を貸したオーナーは、賃料を減額させられる可能性が高い。
ドイツの居室空間温度の基準値(過去の判例より)
賃貸住宅を貸し出す時点でその部屋が寒いとわかれば、市場では評価されず、借り手がつかなくなってしまうリスクもある。そのため賃貸住宅のオーナーは、自分のビジネスを成功させるために貸し出す住宅をきちんと断熱している。このようにドイツでは、寒くない環境で過ごすことが当然の権利として認識されている。
では日本の室温規定はどうなっているのか? 例えば労働安全衛生法では、事業者は室温が10℃以下の場合は、暖房するなどの温度調節をしなければならないと定めている。日本では、法的には10℃以下にならないと暖房しなくても問題ないようだ。
一方で学校保全安全法では、「17℃以上、28℃以下が望ましい」となっている(学校環境衛生基準)。「望ましい」とあるように罰則規定があるわけではないが、労働安全衛生法の10℃に比べると適切な基準値のように思える。
ところが、この基準が採用されたのは2018年4月からのことで、改正される以前の基準は「10℃以上、30℃以下が望ましい」だった。2018年3月までは、学校で冬は10℃、夏は30℃でも許容されてきたのが現実だ。このような基準は、寒くて暑い環境を当たり前としてきた日本社会を象徴しているのではないだろうか。
東京弁護士会の環境保全委員会で住宅の断熱性向上に取り組む岩崎真弓弁護士は「室温をめぐる問題を人権として捉え直すべき」だと言う。
「憲法には、すべての人に健康で文化的な生活を追求する権利が認められています。これまで室温については法的な議論がされてきませんでしたが、人が尊厳を保ちながら健康な生活を送るうえで、適切な室温を享受する権利は不可欠です。ヒートショックや低体温症でこれだけの人が亡くなっているいま、室温を憲法上の人権として位置づけるべきだと考えています」