宮古馬を「守りたい」飼養者と、「活用したい」行政・馬事協会の「意識の差」

人を怖れなくなったシンゴ (Large)

飼い主が変わり、人を怖れなくなったシンゴ

『週刊SPA!』の宮古馬虐待報道を契機に、悲惨な飼育状況を生き延びた4頭が救出されて約1か月がたった。そのうちの1頭「シンゴ」は、昨年10月から飼養者になった若手のKさんのもとへ移された。残りの3頭はまだ飼養者が決まらず、宮古島熱帯植物園の馬場に仮置きという形で、宮古島市が世話をする状態が続いている。  新聞やテレビで大きく報道され、事態を懸念した馬事協会と日本中央競馬会(JRA)の馬事振興関係者が1月22~24日に宮古島を訪れ、視察および飼養者や宮古馬保存会事務局(市教育委員会)との非公開での意見交換が行われた。その内容を見ると、宮古馬を守りたい飼養者と、行政や馬事協会との意識の違いは、まだまだ埋まりそうにない。

飼養者が変わると、馬も変わった!

 1月末に行政や飼養者の聞き取りのため宮古島を訪れた坂田昌子さん(国連生物多様性の10年市民ネットワーク代表)はこう語る。 「シンゴは毛ヅヤも良く、新しい飼養者のもとで人との信頼関係を回復し、とても穏やかな表情をしていました。飼養者のKさんは『飼養者が変わるとここまで馬が変わるということを行政にちゃんと理解してもらいたい』と話されていました。シンゴの姿を見ると、本当にそれがうなずけます」  シンゴは血統を考えると、もっと大きくなってもおかしくないそうだが、虐待を行っていた前の飼い主のもとで十分に餌をもらえなかったため、少し小柄だ。  最初は人に怯えていたそうだが、しだいにリラックスしていったという。今はうっとりとした感じでブラッシングを受けるなど、人に心を許すようになっている。

受け入れ先の決まっていない3頭も、まだ対応不足ながらも「自由」が嬉しそう

まだ飼養者が決まらない植物園の元虐待馬たち (Large)

まだ飼養者が決まらない、植物園の元虐待馬たち

 一方、植物園にいる3頭は、糞尿まみれの狭い馬房からはとりあえず解放された。この3頭はとりわけ飼育環境がひどかったため、皮膚病や蹄の状態など体調が心配だが、1か月たった今も獣医の診察を受けていない。  坂田さんが市の担当者に聞いたところ、「他県の獣医から問合せもあり、獣医に見せたいのはやまやまだが、資金不足で対応できていない」とのこと。行政の努力によって何とかならないものか……。 「私がいる間に『植物園の馬たちが馬場から逃亡して、植物園内を走り回っている』との連絡があり、飼養者さんたちといっしょにすぐ現場に行きました。すると、3頭が気持ちよさげに走っていて、観光客も馬の後をついて回って大喜びしていました。  これまで自由に走るなんてことはできなかったのだから、よほど馬たちは楽しかったのでしょうね。市の担当者の方は、『馬がまだ触らせてくれないので、身体をきれいにしていない』と言っていましたが、馬の扱いにまったく素人の私でも身体を触らせてくれました。  駆けつけた飼養者さんは、簡単に差し縄(馬を引く時に顔につける縄)をつけていました。糞尿が乾き、カチカチになって体にこびりついたままなので、早くキレイにしてあげてほしいです」(坂田)
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「活用なくして保存なし」と公言する宮古島市教育委員会
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