洋楽のライブに邦楽の前座はいる? いらない? 音楽ファンの答えとは……
では、当のアーティスト側はサポートを勤めることについてどう思っているのか? これまで多くの海外アーティストとプレイしてきたメタルバンド・SURVIVEのNEMO氏に話を聞いた。
2月11日の渋谷サイクロン公演を皮切りに日本ツアーに挑むSURVIVEは、3月15日にイギリスのバンド・RAVENとも共演することが決まっている。まさに今回のテーマにも合致するわけだが……。
「俺は国内アーティストがサポートをやるのは、完全にアリだと思う。アーティストとしては、まったく違うオーディエンスの前でプレイできるわけだし、それこそチャンスだからね。オーディエンスとしても、自分が知らなかったバンドや音楽を知るキッカケになるからそれはそれでアリ。昔はよくそういうバンドを見ては、CDを探しに行ってたよ」
いっぽうで、よりサポートアーティストが当たり前となっている欧米のほうが、実は過酷な面も多いのだとか。
「海外では絶対的にヘッドライナー(メインのバンド)様様なところがあるから、ヘッドライナーのサウンドチェックが押したりしたら、サポートバンドにその機会は回ってこない。ぶっつけ本番でやることも多いよ。プロモーターも明確に差をつけてくるしね。ただ、自分たちの立場をよく理解して、その先を目指す事ができるから、俺はある意味やりやすいね。ステージ上のドリンクの数、タオルの数まであからさまに違うからね」
海外ではサポートとしてプレイできる機会が多いものの、そのぶんメインのバンドとのヒエラルキーも明確になっているというわけだ。
しかし、それを乗り越えれば、そのリターンもまた大きいという。
「ライブを観て気に入れば、オーディエンスはもうとことんバンドをサポートしてくれる。買ったマーチャン(物販)を着て会場を練り歩くことから始まって、下手するとライブ後の街中でもそういう光景が見られる。本気でいいバンドはどんどんプッシュしていってくれるよ」
また、インフラ面などでは“格差”があっても、アーティスト同士では分け隔てなく付き合えるのもサポートする醍醐味なのだとか。
「海外ツアーでは、みんな舞台裏でとても協力的で、お互いを支え合って一日がすぎていくんだよ。俺のギターパーツ壊れたときも、別バンドのメンバーがスペアパーツをわけてくれたり、ギターテックが修理してくれたことがある。とにかく舞台に立つ人々はリスペクトし合って、とてもいい関係でサポートアクトが演奏させる環境を作ってくれるんだよね。素晴らしい体験だった。呼称についても、日本の『前座』っていうのは昔の言葉だよね。俺は『サポートアクト』が一番いいかなと思う」
オーディエンスからはさまざまな意見が出ているサポートアクトだが、国内バンドの底上げに繋がるという意味では、間違いなく効果があるだろう。
「世界で戦ってきたバンドからいろんな要素を吸収していく気持ちで一日すごすのは大切なこと。ステージクルーや音響、照明、バナーの配置からステージセットに何を使ってるか……。一日中、勉強できるいいチャンスだから、日本での活動や音楽を作るうえで、そのような経験を盗んでいくことが大切かな。大好きなバンドと同じステージを共にする……。たしかに素晴らしい経験だけど、それ以上に吸収できることが沢山あるし、それがその後の仕事になって活きるわけだから。サポートアクトは常に勉強だよ!!」
貴重なお金や時間を使って観に行くライブ。「カスタマー」としては、国内のサポートアクトについて否定的な意見が出るのは、ある意味仕方ない部分もあるだろう。
しかし、「リスナー」として考えた場合、音楽とはそもそも国境のないもの。国内アーティストには興味がないと思うなら、海外勢に対抗できるレベルになるよう、あえて「ジックリ観てやる!」という気概を持つのもいいかもしれない。
<取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン