総務省のフェイクニュース対策についての報道を見る限りでは、明らかに政権支持のための施策にしか見えない。
・規制ありきのトップダウンアプローチを取っている時点で問題がある
前述したように既存のレポートで明確に否定されているアプローチを取っている以上、問題があると言わざるを得ない。加えて、先行する各国の資料を研究していないこともわかる。
・専門家不在で進む検討=結論ありきの形式だけの会議?
総務省は有識者会議「プラットフォームサービスに関する研究会」で検討を行うとしているが、公開されている範囲での過去の議事録を見る限り、ネット世論操作について見識のある方はいない。ユーザリテラシー、自浄メカニズムやプラットフォームの対策を取り上げているので、ここ数年の研究成果を知らないのは明らかだ。それらを否定はしないが、もっと重要なものや優先すべきものがある。よくある結論ありきで、形式上有識者っぽい人々をそろえただけのようにしか思えない。
その一方で日本国内でネット世論操作が行われているのは確かで(前掲書第5章や
HBOLの過去記事参照)、レポートも発表されている。自民党のためにネット監視と通報を行う企業も存在する。監視と通報自体は問題ではないが、本来なら政府で行うべきである。そうでなければ予算のある政党が有利になるだけだ。
政権支持のネット世論操作が存在している状態で、不適切なフェイクニュース対策を施行することは非常に危険である。
では、本当にフェイクニュース対策を行いたい場合、なにをすればよいのだろうか? 話は簡単である。
市民と民間に予算をつけて、海外から経験ある研究者を招いて(日本国内に専門家はいない)調査研究を行うのである。
・ネット世論操作の実態把握
・アクターの特定
・有効な対策の立案
最低限この3つを市民と民間の組織で行って、それを元に規制が必要なら検討するという流れになるべきだろう。
※本稿の一部に誤りがあったため、修正いたしました。お詫び申し上げます。
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」
<取材・文/一田和樹>
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『
フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている