アメリカ大統領選へのロシアの介入で、フェイクニュースを中心としたネット世論操作は他国からの攻撃というイメージをお持ちの方が少なからずいるかもしれない。しかし、実際には
ネット世論操作は多くの場合、国内をターゲットにしている。他国をターゲットにしている場合でも、その前に国内に対して行っているのである。
・ネット世論操作は最初に自国民を対象に行うのが基本である
世界48か国でネット世論操作が進行しており、その全てにおいて
自国民を対象にネット世論操作が行われていた(前掲書題3章参照)。ロシアのアメリカ選挙戦への介入に目を奪われがちだが、そのロシアもその前に自国民を対象にネット世論操作を開始していた。
・フェイクニュース対策や対策組織は政権がネット上の言論空間を掌握するために用いられることが多い
自国民を対象にしたネット世論操作では、
「敵対者(政党や政治家など)への攻撃」や
「政権支持」がもっとも多く行われていた。
自国民を対象にしたネット世論操作の威力は強力だ。たとえば、インドやフィリピンでは
ネット世論操作を行った政党が政権を奪取しているし、カンボジアでは
野党党首がフェイクニュースで国家叛逆を計画したとして逮捕投獄された(冤罪)。その他、ベトナムなどでも包括的なサイバーセキュリティに関する法律と監視部隊が政権維持のための装置になるのではないかと危惧されている。
・政府主導のフェイクニュース(ネット世論操作)対策は危険なだけ
政府の考えているフェイクニュース対策が支持のためのものかどうかを判別するのは簡単である。フランス政府が公表した資料
「情報操作 デモクラシーへの挑戦(INFORMATION MANIPULATION A Challenge for Our Democracies)」(ネット世論操作に関して現在入手しうる包括的な調査資料のひとつ、2018年8月)に、50の対策が書かれており、その基本は市民や民間であり、政府はそれを支援する立場にあるとしている。決して
政府からのトップダウンアプローチを取ってはいけないと戒めている。政府が市民や民間を支援する方法には法律や制度の整備も含まれるが、それだけが先行するのは避けなければいけないわけだ。