嫦娥四号を載せたロケットの打ち上げ (C) CNSA
しかし一方で、中国の宇宙開発は、近年著しい発展を遂げており、とくに軍事衛星の打ち上げ数は米国並みに多い。さらに米ロと同様に、衛星を攻撃・破壊するミサイルなども保有しているとみられ、大きな脅威であることは間違いない。
だが、だからといって、その脅威を嫦娥四号と結びつけて論じることは、むしろ事の本質を見失うことになろう。絡まった紐をほどくように、問題を切り分け、一つひとつの事柄に冷静に対処すべきである。
衛星攻撃兵器などの開発に対しては厳しい態度で臨み、またそれに対する対抗策も考えるべきだが、一方で大前提として、宇宙は平和利用されるべき場所であることは論を俟たない。宇宙における軍拡がエスカレートする危険性、そして”宇宙戦争”が起こる危険性をなんとしてでも避けるよう、各国は取り組むべきだ。
そこにおいて、嫦娥四号のような科学ミッションは、米国や日本など、他国が協力できる可能性のある分野である。宇宙開発における協力は、お互いの手の内を少しでも見せ合うことになり、また交流や対話が行われることで相互理解も進み、偶発的な衝突も起こりにくくなる。なにより、ともに科学という知のフロンティアを切り拓いていくことで、人類全体に対する責任感が生まれ、そして人類全体の科学・技術の向上につながる。
嫦娥四号をきっかけに、たとえゆっくりとでも協力関係が始まり、中国が主張するように「人類の月探査の新たな章」が開き、そしていつか月に、軍事基地ではなく、世界中の人々が参加する科学基地が建つ日がくることを願いたい。
<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
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【参考】
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http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805036/content.html
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http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805050/content.html
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http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805058/content.html
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http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805087/content.html
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http://www.clep.org.cn/n5982341/c6805176/content.html