月の裏側に着陸した嫦娥四号の着陸機。玉兎二号から撮影されたもの (C) CNSA
嫦娥四号について、中国は科学目的の探査ミッションであるとし、また「人類の月探査の新たな章の始まりだ」とも語っている。
一方日本や欧米のメディアなどでは、「月の裏側にある資源が狙い」、あるいは「将来の軍事基地の建設を狙っている」といった論調も目立った。しかし、そうした見方はナンセンスである。
月における資源としては、「ヘリウム3」と呼ばれる物質が有名である。ヘリウム3はヘリウムの同位体で、核融合発電の燃料として使えば、わずか数十トンで全世界の1年分の電力を作り出せるとされる。またヘリウム3は地球には少ないものの、月には多く、とくに裏側に集中して埋蔵されているとも見積もられている。
しかし、核融合の技術はまだ研究・開発段階で、実用化までには数十年かかるとされる。また、ヘリウム3を燃料に使う場合はさらに難しい技術が必要なため、それ以上の年月がかかるだろう。そもそも、重水素という燃料を使った核融合ならヘリウム3より比較的簡単で、何より重水素は地球の海に大量に存在するため入手もしやすい。100年、200年後ならまだしも、現時点でヘリウム3を資源として利用することを考えるのは無理がある。
また、軍事基地の建設という可能性も、ほとんど考えられない。まず、中国も批准している「宇宙条約」において、
「月その他の天体は、もっぱら平和目的のために、条約のすべての当事国によって利用されるものとする。天体上においては、軍事基地、軍事施設及び防備施設の設置、あらゆる型の兵器の実験並びに軍事演習の実施は、禁止する」
と定められており、軍事基地の建設は明確な違反となる。
なにより、月に軍事基地を建設するメリットはない。誰もいない月に軍隊を置く意味はないし、また地球から離れすぎており、電波を傍受する施設やミサイル発射基地などを建設しても無意味である。そのお金を他の兵器の開発や調達に使ったほうがよほど有意義だろう。
そもそも月に軍事基地を建設することがそれほど有益なのなら、すでに米国やロシアなどが建設しているはずである。
いつか月に都市が築かれるようになれば、自国民の保護などを目的に軍隊が置かれることもあるかもしれないが、それは数十年以上先の話になるだろうし、また、月に都市が築かれるということは誰でも月に行ける時代になっているということであり、いまこの時代に嫦娥四号で着陸したからといってどうこうなるものでもない。
実際のところ、嫦娥四号には科学観測機器しか搭載されておらず、資源を採掘する装置や兵器などはないことからしても、科学目的のほかに別の目的があるという証拠や形跡はまったくない。
国威発揚という見方もできるが、宇宙探査を通じて自国の技術力の高さをアピールすることは米国でも日本でもやっていることであり、また、わざわざアピールせずとも自ずと示されるものでもあり、中国のことだからといって、ことさら大きく取り上げるようなものではない。