早野氏自身は、当時の自分の情報発信について、「早野龍五氏ロング・インタビュー2 ――原発事故後、なぜ早野氏は『黙らなかった』のか」(参照:
https://blogos.com/article/45679/)で以下のように振り返っています。
これは、糸井重里氏との共著の『知ろうとすること』でもほぼ同じ内容が繰り返されます。
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最初のツイートがツイログに残っていますが、この時にセシウムと聞いて意味がわかった人は日本中にほとんど居なかったはずです。ですから、セシウムというのはどういうものかというのを、解説しはじめたのが最初です。
“3月12日 14:22 hayanoCs137が出す662 keVのガンマ線を確認したという意味か.福島第一原子力発電所.Cs137は天然には存在せず,Sr90とともにウランの核分裂で生じる代表的な放射性同位元素.”
その日の夕方1mSv/hを超えてしまった。この時はまだ枝野さんがμSvとμSv毎時の区別ができなかった頃ですね。
“3月12日 17:30 hayano放射線レベルの大きな上昇があったということは,原子炉も格納容器も破損したと推定するのが妥当だな.
3月12日 17:32 hayano放射線レベルが(敷地境界で)1015μSv/hになった.これはシリアスだ.“
それから、これは格納容器もきっと壊れているのではないかというようなことを言い始めた。
“3月12日 18:06 hayano原子力安全保安院会見を聞いても,要を得ない.これだけの情報では,何が起きたか推測するのは僕には無理です.”
それで僕はデータをあつめて解析して、と科学者がいつもやっていることをいつも通りにやろう、と思ってグラフを作ったわけです。
福島第一原発から送られた、字が潰れたようなファックスをスキャンして、PDFにして貼ってあった数値をひとつずつ読んでグラフにするというのを始めたわけです。それが3月の13日です。
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既に紹介したように、早野氏の「最初のツィート」は3月11日 23:55:51 の
“全くです.RT @y_mizuno: 九州大学の吉岡斉さんは、原発関連の科学技術政策の専門家なのだけれど、今回の福島原発で冷却できないとメルトダウンの可能性がある、などと言及されるのは理解できないなぁ。…そのコメントをするのであれば、関連分野の専門家を呼ぶべきでしょう。残念。”
であって、その14時間後の
“3月12日 14:22 hayanoCs137が出す662 keVのガンマ線を確認したという意味か.福島第一原子力発電所.Cs137は天然には存在せず,Sr90とともにウランの核分裂で生じる代表的な放射性同位元素.”
ではありません。つまり、2012年8月、原発事故から1年半後には、すでに堂々と自分の過去を改竄しているわけです。さらに、
“それから、これは格納容器もきっと壊れているのではないかというようなことを言い始めた。”
と書いていますが、実は
“はい.現場の方々の御努力に期待します.RT @sakumotsu0403: @hayano 冷却に成功すれば大惨事は回避出来たと考えていいのでしょうか?”
(3月12日 21:49:20 のTweet(削除済み))
にあるように「壊れていない、問題ない」と言い続けています。
なぜこのような過去の改竄が行われたか? 真実のところはわかりません。
しかし、2012年になって早野氏の発言を読む人に、当時の間違った発信や政府・東電発表をそのままオウム返しにしていた発信は「なかったこと」にして、「自分は当時、東電や政府と違ってちゃんと問題を理解し、必要な行動をとった」というイメージを与える結果にはなっていると思われます。
2011/3/12以降も早野氏は次々と間違った情報発信と過去の改竄を続けていましたが、それらの個別の指摘はさておくとして、まずは問題となった論文について、そして黒川氏の指摘について、なぜこのようなことが起きたのかが明らかになることを望みます。
多くの被災者に大きな影響を与えた論文にあった多くの「誤り」だけに、「見解」を文科省記者クラブに貼出し、Twitterに画像をポストする、ということでは済まない問題なのです。
<文/牧野淳一郎>
まきの じゅんいちろう●神戸大学教授、理化学研究所計算科学研究センターフラッグシップ2020プロジェクト副プロジェクトリーダー・学術博士。国立天文台教授、東京工業大学教授等を経て現職。専門は、計算天体物理学、計算惑星学、数値計算法、数値計算向け計算機アーキテクチャ等。著書は「シミュレーション天文学」(共編、日本評論社)等専門書の他「原発事故と科学的方法」「被曝評価と科学的方法」(岩波書店)