データ不正提供疑惑・計算ミス発覚の個人被曝線量論文。早野教授は研究者として真摯な対応を

データ提供は適切になされたのか?

 約5万9000人分のデータを解析している、というのは、第一論文の表1に2012年第3四半期のモニタリング参加者について N=59056 と書いてあり、約59000人のデータを扱っていることは間違いないようにみえます。  同意を得ているかどうかについては、各メディアの報道によれば、測定に参加した5万8000人あまりのデータが提供されたが、同意しなかった97人と同意書が未提出だった2万7233人が含まれていたということです。  また、このこと自体には伊達市からの発表はありませんが、12月20日になって、「被ばく線量データ提供に関する調査委員会(仮称)の設置について」(参照:伊達市)という報道発表が行われており、“被ばく線量データの外部提供に関する経緯について、今後第三者を含めた 「調査委員会」を立ち上げ、詳細調査を進めることとした。なお、平成30年12月19日の議会全員協議会において、この旨説明した”とあります。なので、なんらかの問題があった、と伊達市側で判断し、調査を開始することになったことがわかります。  この件について最初に報道したのは、「OurPlanet-TV」で、12/6のことです。ここでは、 “さらに高橋議員は、研究計画書に「同意した住民のみを対象とする」と記載されているにも関わらず、同意しなかった住民データ約3万人分も含まれていると指摘。解析結果は、海外の科学雑誌に掲載され、ICRP(放射線防護委員会)の防護基準見直しや国の避難基準の緩和に活用される恐れがあるとして、市に対応を求めた。田中直轄理事は「論文の中身については執筆者の二人が対応すべき。依頼文書に基づいた論文に変更があれば、お知らせがあるはずだ」と理解を求めた。 市によると、測定に参加した住民5万8481人のうち、同意したのは約半数の3万1151人。97人が「不同意」を表明し、残りの2万7233人は同意書を未提出だった。”  と、この件についてまとめられています。しかし、同じページにある伊達市議会の公式動画からの髙橋一由議員の質問の部分を見ると、極めて信じ難い答弁がなされています。  それは、「GIS化したデータは早野教授に依頼して作成した」「GIS化したデータは(早野教授から)納品してもらっていない。伊達市はもっていない]「GIS化したデータは(宮崎氏に)伊達市から提供したものではない」というものです。  論文には、  This study was approved by the ethics committee of the Fukushima Medical University (approval No. 2603)(この研究は福島県立医科大学倫理委員会許可(許可番号2603)を得ています)とあります。これは、その委員会に「研究計画書」を提出して、研究する許可を得た、ということです。研究計画書自体は、やはり OurPlanet-TV の12/10付けの記事に写しが公開されています。(参照:OurPlanet-TV)  研究計画書4ページ目の「研究対象者の選定方針」には “本研究に提供されるデータベースには、 2011年8月から2015年6月にかけての3年11ヶ月間に伊達市が全市民を対象に行ったガラスバッジによる外部被ばく線量調査、ホールボディカウンターによる内部被曝線量調査の結果が含まれており、閲覧解析の対象者はデータを本機関に提供する同意があったものに限られる(同意書を資料2、 3に呈示する)伊達市が行った調査への参加意向に沿い、本研究を含めた事業への参加は任意である。”  また5ページ目の「研究方法」には データベース化:伊達市における作業  ○各個人へのID付与  ○個人被ばく線量把握事業の全結果と施行日をIDごとのデータとして整理  ○ID付与者の居住地を航空機による空間線量モニタリングの各メッシュと突合  ○ID付与者世帯における除染時期の明示(A、Bエリアのみ)  とあります。これと市担当者の答弁をあわせると、 ・研究計画書には 同意を得た人のデータだけを使う、と書いてあるが実際にはそうなっていない ・研究計画書には、「ID付与者の居住地を航空機による空間線量モニタリングの各メッシュと突合」とあるが、実際には – GIS化(すなわち、住所から緯度経度データへの変換)は市から早野氏に依頼している – しかし、変換したデータを市は受け取っていない  となります。  市の担当者が間違った答弁をしているのでなければ、研究計画書に書いてあることとは異なり、「ID付与者の居住地を航空機による空間線量モニタリングの各メッシュと突合」したのは早野氏であるということになり、また、そのデータを市は受け取っていないのですから当然早野氏・宮崎氏に渡すことも不可能であり、論文は、研究計画書に記載された手順とは無関係に市から早野氏にGIS化依頼した際に渡されたデータを使って書かれているということになります。  また、これは OurPlanet-TV の記事でも指摘があることですが、論文では  The geocoded household addresses of the glass-badge monitoring participants were pseudo-anonymized by rounding both longitude and latitude coordinates to 1/100 degrees prior to data analyses.  とあり、緯度経度データは1/100度まで丸めた、と書かれているのですが、論文の図3でサーベイ参加者を地図上にプロットしており、それは1/100度より精度の高い、特に人口密度が低いところでは個人や住所を特定できかねないものになっています。つまり、論文に「データ処理はこうした」と書いてあることと、実際のデータ処理の結果に明らかな矛盾があります。また、「適切なデータを伊達市から受け取ったという認識で対応していた」という早野氏の回答は、市の担当者の答弁とは矛盾するものです。
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研究の質を大きく揺るがすレベルの計算ミス
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