まずは、論点ずらしの分かりやすい例を見ていただきたい。2018年6月7日の参議院厚生労働委員会における、福島みずほ議員(社会民主党)と山越敬一労働基準局長(当時)のやりとりだ(※
「国会パブリックビューイング 第1話 働き方改革-高プロ危険編-」27分45秒~)。これは、「ご飯論法」というほど込み入ったものではない。
どこに「論点ずらし」があるか、お分かりだろうか。
「論点ずらし」の様子を文字起こしで確認してみよう。なお、番組全体の文字起こしはこちら(参照:
筆者のnote)にある。
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【福島みずほ議員(社会民主党)】
しかもこれ、おかしいですよ、問いが。この12人というか、今年9人にヒアリングをやるときに、
高度プロフェッショナル法案、「労働時間、休憩、休日、深夜業の規制がない労働者を、あなたは望みますか」という質問をしたんですか。
【山越労働基準局長】
いずれにいたしましても、このヒアリングでございますけれども、こういった高度な専門職に就かれている方の働き方についてのニーズを把握する目的で行いまして、その結果、こういった御回答をいただいているところでございます。
【福島みずほ議員(社会民主党)】
答えていないですよ。
大臣は、高度プロフェッショナルに関して、ニーズをどうやって把握したかということに関して、衆議院の厚生労働委員会で、「十数名からヒアリングを行いました」と。これが根拠になっていたんですよ。唯一の根拠ですよ、唯一の。唯一、話を聞いたという根拠がこの12名で、それがどうして(今年の)2月1日なんですか。しかも、これ漠然としていますよね。
例えば、今年、「様々な知見を仕入れることが多く、仕事と自己啓発の境目を見付けるのが難しい」。何でこれが高度プロフェッショナルを望む声になるんですか。
誰も、高度プロフェッショナルの具体的な中身を聞いて、それを支持すると言っている中身ではないですよ。
高度プロフェッショナル法案の一番重要なこと、「労働時間、休憩、休日、深夜業の規制がなくなります。そういう働き方を望みますか」と聞いたんですか。
【山越労働基準局長】
いずれにいたしましても、このヒアリングでございますけれども、その日常業務の中で、こういった高度専門的な業務に従事する方の仕事に対するニーズを把握したものをまとめたものでございます。
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高度プロフェッショナル制度(高プロ)は、労働基準法の労働時間、休憩、休日、深夜業の規制がなくなる(適用除外になる)制度だ。この規制は労働者を縛るものではなく使用者を縛るものだから、その規制がなくなるということは、労働者が自由に柔軟に働けることは意味せず、使用者が残業代を払わずに自由に柔軟に労働者を働かせることができることを意味する(その後、指針により、時間指定を伴う場合は対象業務に該当しないとする一定の制約はかけられたが)。
労働者にヒアリングを行う際、高プロがそのような働き方であることをちゃんと説明した上で、そういう働き方を望むかと聞いたのか、というのがこの福島みずほ議員の問いだ。
しかしその問いに対し、山越労働基準局長は、「
いずれにいたしましても」とあからさまに無視を決め込む。答弁拒否されていることは福島みずほ議員にはわかるので、「
答えていないですよ」と即座に返し、再度同じ問いを投げるが、返ってくるのは「
いずれにいたしましても」という同じ言葉のみだ。
これは、北方領土問題について記者会見で問われた
河野外務大臣が「次の質問どうぞ」と4回繰り返したのと同種の、ひどい答弁拒否だ。
なぜ、このようなあからさまな答弁拒否をするのか。高プロが労働基準法の労働時間規制の保護から労働者を放り出すものであるという本質を説明しないまま労働者にヒアリングを行い、労働者が高プロを望んでいるかのような声を集めてそれを高プロへの労働者のニーズと偽装しようとした、その実情がバレては困るからだろう。
だから、不都合な質問には、二度にわたって「
いずれにいたしましても」というあからさまな答弁拒否で、山越労働基準局長は返したのだ。