アサド政権の空爆で5年前に手足を失った子どもたちは……。内戦終結が近づき、追い詰められるヨルダンのシリア難民

シリアには自由がないかもしれないけど、家族が5年ぶりに再会できる

イルビッドの街中 (Large)

ヨルダン北部、シリア国境に近いイルビッドの街中(2018年12月)

 今後ヨルダンのシリア難民をどのように支援していけばいいのかを考えるために、2018年12月16日から3日間、ヨルダンを訪問した。  ヨルダンの首都アンマンの飛行場に到着すると、ジョワード・アバジッドさんが迎えに来てくれた。彼はイマッドさんのいとこで、自らもダラーのデモに参加して怪我をした人たちを救急車で運ぶときに、狙撃され大怪我を負っている。アメリカにいるイマッドさんと連絡を取りながらジョワードさんがかつて支援した子どもたちの居場所を確認していく  イルビッドに着くと、マリック君を訪問した。マリック君は、ムスタファ君と同じ頃に攻撃を受けて右足を切断した。お腹にも爆弾の破片が入っていたので、何度か手術した。ジョワードさんが何度か電話で場所を確認しているうちに、マリック君が歩いて通りまで出て迎えてくれた。義足をつけて、さほど不自由なく歩いている。
マリック2018 (Large)

マリック君は、シリアに戻る決心をした(2018年12月)

 マリック君は携帯電話の修理を覚えて、ヨルダン人が運営する携帯電話屋で月に3万5000円ほど稼いでいる。最初はリハビリに通っていたが、いつしかそれは筋トレに変わり、上半身にはしっかりとした筋肉がついてたくましくなっていた。 「来週、シリアに戻ることにしたんだ」  マリック君は、怪我をして一人でヨルダンに治療に連れてこられた。その後、母と弟が難民としてヨルダンに来たが、父とその他の兄弟はダラーにとどまっていた。 「父の話では『もう帰っても大丈夫』というので、帰ることにしたんだ。シリアには自由がないかもしれないけど、離れ離れになった家族が5年ぶりに再会できるんだ」  マリック君は嬉しそうだった。サッカーが好きだという彼は、間もなく始まろうとしているアジアカップについて熱心に語っていた。 「シリアの代表が団結して、ヨルダンを打ち負かすんだ!」 (※2019年にUAEで開催されるサッカーアジアカップでは、1月10日にシリアとヨルダンが予選を戦う)

再会したムスタファ君は、ふさぎ込んでいた

ムスタファ2018年 (Large)

18歳になったムスタファ君(右)は、将来の希望を見いだせずにいた(2018年12月)

 一方、ムスタファ君は家族全員で難民としてアパートを借り、アンマンで暮らしていることが分かった。イルビッドから1時間30分ほどかけてアンマンに移動する。アンマンは小さな山の斜面にアパートが張りつくように建てられている。坂が多い町だ。狭い路地を入っていくとムスタファ君が座っていた。  しかし、かつてのような明るさがない。今回7家族を訪問したが、ムスタファ君が最も沈んでいるように見えた。彼の父は日雇いの仕事しかつけずに、収入は安定しない。ヨルダン政府は、原則シリア難民の就労を禁止している。数年前に雇用を認めたが、実際許可が下りるのはわずかなようだ。  アサド政権の徴兵から逃れてヨルダンに来た兄は、米軍のキャンプに参加したこともある。そこそこの給料はもらえたが、アサド政権ではなくイスラム国と闘わなければいないというので辞めてしまった。家計を支えるためには、やはり日雇いの仕事をするしかない。  筆者は「ムスタファ君は何をしているの?」と聞いた。 「何もしていない」 「学校には行かなかったの?」  父親が口を挟んだ。 「学校なんて役に立たないよ」  彼のような障害者のために職業訓練を行っているNGOもあるが、そこまで通う交通費が工面できないというのだ。足だけならともかく、利き腕を失ったムスタファ君にとっては何を始めるのにも負担が大きい。 「シリアに戻る気はないの?」と聞くと、父親は「ムスタファの骨が成長していて、また手術をしなければならないんだ」と答えた。足と腕を切断した部分の骨が成長して、削る手術を今まで8回も受けてきたのだという。カナダに移住する可能性もあり、家族はしばらくアンマンで様子を見るという。
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窮地に陥るヨルダンのシリア難民支援
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