マクロン大統領は当初、2019年1月1日から燃料税増税を強行するつもりだった。しかし、生活への負担増に抗議する「黄色いベスト運動」という庶民による自発的な大規模デモが勃発し、広がりをうけたために、マクロン政権は12月4日に6か月間の延期を表明した。しかし反対運動が収まる気配は見られず、12月5日に燃料税の値上げの中止を発表した。
エドゥアール=フィリップ首相は12月5日、国民議会で「政府は対話の用意がある。2019年予算から増税は取り下げられた」と表明した。大統領府も「ほかの解決策や環境問題に対応する財源を、別途見いだすことになるだろう」と説明した。政府は燃料税の値上げの中止と車検制度見直しの6か月延長などを表明したが、運動の呼びかけ人の多くが「不十分」と反発。予告したとおり12月8日にもデモを実施した。
フランスで12月8日に行われたマクロン政権に抗議する大規模デモで、クリストフ=カスタネール内相は同日夜、全土で治安部隊を含む135人が負傷し、1385人が拘束されたと発表した。拘束者数は、一連のデモでは最多だった。
参加者は警察発表によるとフランス全体で12万5000人、パリでは1万人に上った。デモ隊の一部は車両やタイヤに放火するなど暴徒化し、警官隊がゴム弾や放水銃、催涙ガスで鎮圧を図った。シャンゼリーゼ通り沿いの店舗はのきなみ破壊し尽くされ、略奪を受けた。
パリでは12月1日の抗議デモが過去数十年で最悪の暴動に発展していたことから、8日は約8000人の警官が出動し、エッフェル塔などの名所や地下鉄駅を閉鎖するなど厳戒態勢が敷かれた。フィリップ首相によると、当局は全国に計8万9000人の治安部隊を展開したが、抗議者の暴徒化を防ぐことはできなかった。
この事態を受けて、記者会見したフィリップ首相は「(マクロン)大統領が近く意見を表明し、(市民との)対話を推進する方策を提案する」と述べた。
マクロン大統領がテレビ演説、最低賃金の月額1万3000円アップを約束
立ち上がれフランスのニコラ=デュポン=エニャン党首
マクロン大統領は12月10日にテレビ演説を行い、過熱するデモについて自身の責任を認めた。また「経済的・社会的な非常事態だ」と宣言。低所得者への配慮として、2019年から最低賃金を月100ユーロ上げる政策を発表。
さらに「残業代や賞与を非課税にする」「企業に対して、できる限り年末ボーナスを従業員に支給するよう要求する」など大幅な「譲歩案」を打ち出した。フランスの月額最低賃金は手取りで1185ユーロ(15万2000円)。100ユーロあげるということは、日本円にして約1万3000円となる。
マクロン大統領のこの政策を「立ち上がれフランス」党首のニコラ=デュポン=エニャン下院議員は次のように批判する。
「“焼け石に水”程度の効果しかない。親グローバリズム、富裕層優先といった政策はまったく変わっていない。私たちはマクロン大統領の辞任を求めていきたいと思います」