以降の大川総裁を支えたのは、文字通り「総裁補佐」の肩書をもつ妻のきょう子氏だった。しかし2010年にはきょう子氏との間で離婚騒動が勃発する。大川総裁はきょうこ氏の霊言を連発し、きょう子氏を非難。教団から永久追放とした。
2010年12月に公開された、きょう子氏の霊言。右が大川隆法総裁の体を借りてしゃべるきょう子氏の霊(と称されるもの)。それを長女の咲也加氏(前に並ぶ3人のうち左)と宏洋氏(同・中央)がなじる。(教団内ビデオ『文殊菩薩との対話2』より)
一連の霊言の中では、長男・宏洋氏と長女・咲也加氏が、実の母親であるきょう子氏の霊(の言葉と称して女性口調で喋る大川総裁)を罵るというものもあった。これを教団は、全国の教団施設に映像で配信し信者たちに見せた。
夫婦喧嘩を霊言で展開する。実の息子と娘に、母親の霊を罵らせる。その様子を信者たちに向けて公開する。不仲の原因が何であるにせよ、異常な光景だ。
親族に対する報復。そして残る親族に対する見せしめでもある。あまりにおぞましい、夫婦間、親子間でのスピリチュアル・アビューズだ。
今年、長男の宏洋氏が教団と決別し「YouTuberデビュー」を果たすと、大川総裁は宏洋氏の霊言を収録し10月末に書籍として出版した。教団の仕事に遅刻してくるだの、自らが社長を勤めていた教団の芸能プロの所属タレントと付き合っていただの、体を絞ると言ってライザップに通っているのに真面目にやらないから全く効果が出ていないだのと、宏洋氏のプライベートを暴露して罵る内容だった。
かつて、きょう子氏の霊を罵る側に座っていた宏洋氏が、今度は霊言で攻撃された。12月8日に宏洋氏がフジテレビに出演する予定であることがわかると、大川氏はまた宏洋氏の霊言を降ろし、放送前日から全国の教団支部に映像で配信した。
一方、10月末に宏洋氏の霊言本を出版するのとほぼ同時に、幸福の科学は大川総裁の孫の霊言も出版している。長女・咲也加氏が今年5月に出産した、隆一くんの霊言である。咲也加氏については、「宏洋騒動」のさなかに教団が大川総裁の「後継者」であると発表している。
隆一くんの霊言を収録した書籍
『ただいま0歳、心の対話』と題するこの書籍には、胎児だった頃から収録していたという隆一くんの霊の言葉が収録されている。おそらく映像で見たら、赤ちゃん言葉で喋る大川総裁にしか見えないのだろうが、とにかく隆一くんの霊は生まれてきた後にイエス・キリストの霊と会話しているなどと話している。
同書にある「妊娠13週3日(4カ月)の対話」では、隆一くん(霊)はこう語ったことにされている。
〈じいじをいじめるやつは、ぼくは許さないんだ。じいじをいじめるやつはね、ぼくは許さないんだ〉(同書より)
〈善を取り、悪を捨て、邪悪なるものを滅ぼして、神の正義を打ち立てるんだ〉(同)
〈ぼくがいるかぎり、幸福の科学は潰れないよ。ぼくがいるかぎり潰れない。絶対に潰れない。孫が一人優秀であれば潰れない。大丈夫〉(同)
〈ぼくはミラクルを起こすことを託されてる人材なんだ。「ミラクルの人」なんだ。頑張りますよ〉(同)
じいじとは当然、大川総裁のことだ。
「あとがき」では、母親である咲也加氏が〈主よりお預かりした命を、大切に育て、彼が生まれてくる前に誓った本来の使命を果たせるよう、私自身も精進することを誓います〉と書いている。
隆一くんが生まれる前から、幸福の科学を背負って立つものと決めつけてしまっている。しかも、霊言によって、さも隆一くん本人がそれを誓ったかのような設定のもとで。そして隆一くんが生後5カ月という段階でそれを書籍化し、信者にバラまいているのだ。
「ちょっと待てや。人の人生、なに勝手に決めてんねん」
そんな隆一くんの守護霊の声が聞こえてきそうだ。
罵るばかりがアビューズ(虐待)ではない。おじいちゃんたちは、きっと隆一くんを大切に思い、その将来に期待している。そのことは、この書籍から感じ取ることができる。しかしその期待が、交霊術によって人生を支配するという方向に突っ走っているのだ。
地球至高神であり再誕の仏陀であるはずの大川総裁とその一家は、4代にわたって連鎖するスピリチュアル・アビューズの輪廻から解脱できずにいる。
<文/藤倉善郎(
やや日刊カルト新聞総裁)・Twitter ID:
@daily_cult3>
ふじくらよしろう●1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『
「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)