三菱重工が、「H3」ロケット打ち上げを英民間企業から初受注できたワケ

なぜ打ち上げを受注できたのか?

 実際、H-IIAロケットは前述のように成功率が高く、十分な信頼性がある。  さらにH-IIAは、打ち上げ日が一度決まると、極力延期せず、決まった日にきちんと打ち上げる「オンタイム打ち上げ」率も高いという付加価値もある。通信衛星は、顧客に通信やインフラを提供している以上、打ち上げが遅れることで、そのサービスの提供に影響が出ることは避けたいという事情がある。  他のロケット会社では、実際に打ち上げができる最大数を超えて受注を取る傾向があり、その結果、ロケットの製造などでわずかな遅れが生じると、それを吸収しきれず、打ち上げ時期も遅れてしまうことが多々ある。その点、打ち上げ日を確実に守れるH-IIAロケットが、他のロケットより多少高価でも、選択肢として立ち上がってきているのである。  こうした実績、そして三菱重工に対する信頼が、まだ開発中で、打ち上げられたことすらないH3ロケットへの信頼にもつながったことは想像に難くない。  じつは2017年に最初の打ち上げ契約が交わされた際にも、インマルサットのパースCEOは、「新型ロケットH3の開発に見られるように、三菱重工がイノベーションを追求する企業であるのは明らかです。これは我々が当社のパートナーに求めることであり、打ち上げ輸送事業を担う当社パートナーの一員として、三菱重工との長く実りある関係に期待しています」と、H3を使った打ち上げに期待を寄せていた。  その後、三菱重工からインマルサットに対し、H3ロケットの仕様や開発状況の説明が重ねられた中で、「引き続き信頼に足る」という確証が得られたことで、インマルサットはH3ロケットを使った打ち上げを決定したのだろう。  また、この受注によって、H3ロケットの開発が順調であり、そして2020年度の初打ち上げや打ち上げ価格などの目標が達成できる見通しが高いことが、インマルサットが担保する形で世界中にアピールされたことになる。今後、他社からのさらなる受注に弾みがつくかもしれない。
H-IIAロケット

製造中のH-IIAロケット。同ロケットは決まった日にきちんと打ち上げる「オンタイム打ち上げ」率が高い(筆者撮影)

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日本のロケット産業にも弾み
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