アメリカ・ミシガン大学のティモシー・R・リヴァイン氏が、アメリカで人気だったドラマ『ライ・トゥ・ミー 嘘は真実を語る』を使って実験を行なった。
同作は精神行動分析学者の主人公が心理学の知識を使って、相手の表情や仕草を観察して嘘を見破るというもの。『サイレント・ヴォイス』と同じように、作品の随所で心理学の知識が紹介される。
リヴァイン氏が行なった実験というのは、「『ライ・トゥ・ミー』を観ることで嘘を見破る能力が高まるのか?」というものだ。
実験には108人の男女が参加し、以下のように3つのグループにわけられた。
グループ①:『ライ・トゥ・ミー』を観て学ぶ
グループ②:別の犯罪ドラマ(『NUMBERS 天才数学者の事件ファイル』)を観る
グループ③:ドラマを観ない
それぞれのグループには、ドラマ視聴後に12のインタビュー映像を観てもらい、嘘をついているか・真実を言っているかを判定させた。ちなみに12のインタビュー映像のうち、6つが真実を話しており、6つが嘘をついている。
被験者はそれぞれの映像をランダムに見せられ、真実を話しているか、嘘をついているか判定した。結果として「嘘を見抜けた割合」がどうなったかというと、以下のとおりだ。
グループ①:58.8%
グループ②:53.8%
グループ③:56.2%
グループ①(『ライ・トゥ・ミー』を観たグループ)は、ほかのグループに比べて、嘘を見抜ける確率が格段に向上しているわけではない。
さらに、このドラマを観ることによって“残念なこと”が起こることもわかった。実験で真実を言っているインタビュー映像を正しく当てることができた割合を見てほしい。
グループ①:60.1%
グループ②:69.6%
グループ③:74.3%
実は、グループ①(『ライ・トゥ・ミー』を観たグループ)は、ほかのグループに比べて相手が真実を言っていると見わけられる割合が低くなってしまったのだ。
おそらく、嘘を見抜く技術を知ることで、相手の行動に対して注意深くなってしまったのではないかと考えられる。つまり、人間不信になってしまったのだ。
行動心理学のような、行動から相手の考えていることを予測する技術はとても便利であり、相手を理解するためには有効な知識だと言える。是非、皆さんにはこの連載や本を通して技術を学び、それを活かしていただきたい。
しかし、人間の心というのは複雑で、それだけでは正確に判断できないということを忘れてはならない。行動心理学で導き出した「仮説」は、相手の考えていることを理解する「ヒント」だということを覚えていてほしい。
筆者のセミナーには相手の嘘を見抜く技術が必要で参加される方がいる。
その方たちには必ず「仕草を読む技術は『相手の心を読むひとつの要素』でしかない。そのため、相手とコミュニケーションを取りながら、相手の本音を引き出してほしい」と伝えている。
みなさんも、これから心理学を学ぶときには、これを心に留めておいていただきたい。
【参考資料】
『サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻』TV TOKYO Corporation
『ライ・トゥ・ミー 嘘は真実を語る』Twentieth Century Fox Home Entertainment
『The Impact of Lie to Me on Viewers’ Actual Ability to Detect Deception』 Timothy R. Levine,Kim B. Serota and Hillary C. Shulman
【山本マサヤ】
心理戦略コンサルタント。MENSA会員。心理学を使って「人・企業の可能性を広げる」ためのコンサルティングやセミナーを各所で開催。これまで数百人に対して仕事やプライベートで使える心理学のテクニックについてレクチャーしてきた。また、メンタリズムという心理学とマジックを融合した心理誘導や読心術のエンターテインメントショーも行う。クラウドワークスの「トップランナー100人」、Amebaが認定する芸能人・著名インフルエンサー100人に選出
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