東名あおり運転事故に見る、煽る側と煽られる側の特徴を元トラック運転手が解説。
運送業界のドライバー不足を、外国人労働者では補えない理由」を紹介したが、今回は、長年高い目線から「隣の運転事情」を数多く見てきた元トラックドライバーとして、昨今問題になっている「煽(あお)り運転が起きる原因」を考察してみたい。
昨年6月、神奈川県の高速道路で悪質な煽り運転を受けた末、夫婦と娘2人が死傷した事故。危険運転致死傷などの罪に問われている石橋和歩被告に、間もなく判決が言い渡されるが、元トラックドライバーとして同事故の個人的見解を述べると、一家4人を乗せたワゴン車に対して妨害運転を繰り返したうえ、停車が原則禁止されている高速道路の追い越し車線にクルマを停めさせ、一家を死傷させる結果に追いやった被告の罪は、大変重い。
一口に、追い越し車線にクルマを停めさせることは、殺人行為であると断言できる。
同車線を走るクルマの平均時速は約100km。このスピードでクルマが障害物に衝突した際、高さ39m(ビル14階相当)から落下した際と同じ衝撃が生じるのだ。
一方、ワゴン車に追突した大型トラックは、本来追い越し車線の走行が禁じられてはいるものの、夜の追い越し車線にクルマを停めて人が悶着していれば、たとえトラックでなくとも、危険を察知してブレーキを踏み、クルマが完全停止するまでの「停車距離」は相当必要となり、彼らを避け切るのは非常に難しく、夫婦は今回の結果同様に、助からなかった可能性が高い。
そう考えると皮肉なことだが、ドライバーにとっては衝突したのがトラックでよかった可能性も出てくる。車高が高く、車体も強いトラックだったからこそ、ドライバーの命は助かったが、これがもし乗用車だった場合、追突したほうのドライバーも死亡していた可能性があるのだ。
こうしたことから、追い越し車線を走行していたという落ち度はあれど、今回追突してしまったトラックドライバーは、同じ車両に乗っていた筆者から見ても、巻き添えを食ったとしか言いようがなく、地検の下した不起訴処分は妥当だったと言えよう。石橋被告の裁判で、「両親を奪い申し訳ない」と遺族に反省の意を表した同ドライバーの心情を考えると、大変複雑な気持ちになる。
このような大きな事故に繋がり兼ねない危険運転だが、煽り運転そのものは、ドライバーにとってそれほど珍しいものではない。この東名死亡事故のような悪質なケースは稀としても、普段、日常的に運転しているドライバーならば、誰しもが煽られた経験、または煽ってしまった経験があるはずだ。
アイポイントが高いトラックの車窓から、隣の運転事情を観察していた当時、実に様々な光景を目の当たりにしたのだが、中でも多く遭遇したのは、やはりこの煽り運転などの危険運転だった。
この煽り運転には、煽られる側にも煽る側にも、それぞれ特徴と原因がある。
煽られる側の特徴と原因はこうだ。
1.運転弱者
初心者や女性、高齢者の中には、運転が得意ではない「運転弱者」が比較的多く存在する。
彼らの場合、無意識のうちに、無駄なブレーキを頻繁に踏んだり、車間が上手く取れず詰めすぎたり、出すスピードが安定しなかったりすることで、周囲のドライバーをイライラさせてしまうことがあるが、こうした彼らの運転が、後述する「煽る側」の引き金になることがある。
中には、運転弱者ばかりを狙う悪質なドライバーもおり、初心者や高齢者が理解を得るために貼っている「マーク」がむしろ、彼らに向けた「目印」になっているのも事実だ。
2.大型トラックと軽自動車
今シリーズでは、過去に「大型トラックがノロノロ運転せざるを得ない事情」を説明したが、そちらで解説したような理由から、多くのトラックドライバーが、乗用車などからの煽りを経験している。
一方、トラックの車窓から見る限り、それに匹敵するほど多く感じるのが、他車両による「軽自動車」への煽り運転だ。
軽自動車に乗っているドライバーには、前出の「運転弱者」が比較的多いというのが1つの要因になっていると思われるが、軽自動車はクルマの構造上、どうしても他車より衝撃に弱いため、事故を起こすと被害が大きくなりやすい。ゆえに、軽自動車のドライバーは、後述する「煽られないための対策」や「煽られた時の対処法」をより強く検討したほうがいいかもしれない。
「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。
前回は一旦シリーズを離れ、「1
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