被害がなかった上流域との比較でより明確になった「野村ダム」下流域の被害

洪水ではなく土砂災害の被害が出た明間(あかんま)集落

 山間地に入ると肱川はV字峡谷を形成しますが、肱川源流のダム湖から18kmの地点で急に開け、農地と集落が広がります。西予市宇和町明間(あかんま)集落という場所で、肱川はたいへんによく整備されています。  7月7日には、川の水でなく、山からの泥水、続いて土砂崩壊によって大きな被害を出していますが、これは黒瀬川などダム上流側全域に見られることです。(参照:【西予・宇和】裏山崩壊、避難間一髪 愛媛新聞 2018年7月10日)  実際、県道29号線はあちこちで土砂崩壊によって交通規制中で、道路が大きく損壊するなど7月7日当時の災害の大きさを今も残しています。
車田橋から下流側

西予市宇和町明間 車田橋から下流側(野村ダム側)を望む。既にダム湖の影響が強く出てきている2018/11/11撮影

野村ダムで明確に分かれる流域の被害

 明間から県道29号線を更に東進すると、いよいよ野村ダム湖が姿を見せ始めます。
板ケ谷橋より肱川上流

板ケ谷橋より肱川上流を望む2018/10/27撮影

 県道29号線は肱川からやや離れて並走しますが、板ケ谷橋からダム湖の様子を見ることができました。源流の砂防ダムから22kmで、あと3kmほどで野村ダムです。  山肌の所々に土砂崩壊の跡が残りますが、ダム湖は平穏そのものです。これは当たり前のことで、ダム湖は運用上ダムのサーチャージ水位を超えることはありませんので、氾濫や植生の著しい破壊は生じえません。
板ケ谷橋より肱川下流

板ケ谷橋より肱川下流を望む2018/10/27撮影

 野村ダムも周囲のあちこちに大小の土砂崩壊跡を残しますが、ダムの上流側に限れば肱川の氾濫による大きな水害は起きていませんでした。  何度も述べたように、更に上流にダムがない限り(砂防ダムや流水ダムは除く)、ダムの上流側の最高水位はダムのサーチャージ水位によって定まるため、それより著しく高水位になることはダムの運用上ありえないことから、河川設計が容易で且つ、ダム建設と同時に河川整備を行っており、必要と考えられる治水事業が完成していたものと考えられます。実際、橋梁の建設時期は野村ダムの建設時期と同じものが多く、当然ですが堤防や河川付け替えなどの治水事業も同時かつ大規模に行われていました。  このことは、国土地理院が公開している過去の航空写真からも確認することができ、野村ダムより下流の約80kmに及ぶ肱川全流域での治水対策の想像を絶する貧弱さと対象的です。  ここまでの8回の連載で、肱川の源流から河口まで7月7日豪雨とそれによる水害の実情をご紹介してきました。  地元の人々に話を伺うと、ダムの操作ミスだという批判が多く出る一方で、国土交通省はダム操作は適切であったと主張します。非常時のダム操作は、ダムから水を越水させないの一点で、そのためにただし書き操作が認められています。  砂防ダムや流水ダム(穴あきダム)などの一部のダムを除き、ダムにおける堤体越流はダム崩壊に直結する最悪の事態で、それを避けることは当然のことです。  このダム操作ミス論争は、明らかに論点が本質から外れており、これに囚われると永遠に本質に達することはできません。  これまでの現地取材結果を踏まえて、次回はなぜ肱川大水害という治水技術の発達した現代にありえないことが起きたのかを考えてみようと思います。 『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第3シリーズ水害編-7 <取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado> まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガが12月16日開始予定
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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