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世界で民主主義が死につつある。ロシアや中国は言うまでもないが、ヨーロッパ、アジア、南米、アフリカでも民主主義は死に、代わりに見せかけの民主主義が台頭しつつある。表向き投票など民主主義の手順を踏んではいるものの、その中身は独裁者を擁する全体主義だ。日本も例外ではない。
先日、上梓した拙著『フェイクニュース新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)では、自民党がネット監視を行っており、多数のボットやトロールが活動し、政府によるウソの容認や事実改竄が「攻撃してよい雰囲気」を醸成していると書いた。ここに情報能遮断(フィルターバブル、機能的識字能力低下など)などが加わり、ネットを中心とした世論操作によって民主主義が危機に瀕していると書いた。
だが、現在の右傾化や全体主義化を進めている主体を明らかにして倒せばよいのかというと、それは誤りである。それらは確かに民主主義の敵であるが、表面上そうなっているだけのことで本質的な問題は別にある。ネット世論操作でよく用いられるフェイクニュースを無効化するのに正面からそれを否定するファクトチェックを行っても効果がないことと同じだ。目に見えている以上に根深い問題がある。
よく考えていただけばすぐにわかると思うが、日本の為政者たちは投票という形で国民の信託を受けた人々である。もし彼らが右傾化や全体主義化を推進するなら、それは国民の意思によるものと言えるのではないだろうか? 少なくとも制度上はそう規定されており、そうなるべく設計されたプロセスのはずだ。だが、答えはイエスであり、ノーである。
現在の民主主義ではそのプロセスがうまく機能していないのだ。
これまでの民主主義は明文化された制度などによって守られてきたのではなく、制度の背景となった価値感や行動によって守られてきたのが実態だ。言葉を換えると、明文化された民主主義の手順だけでは民主主義を支えられない。その背景にある価値感を尊ぶ雰囲気がなくなれば民主主義は死ぬ。
民主主義を殺すのは民主主義のプロセスなのである。
民主主義の価値感を支える雰囲気を壊すため狙われるポイントは、2018年8月にフランス政府機関がまとめた『
情報操作デモクラシーへの挑戦(INFORMATION MANIPULATIONA Challenge forOur Democracies)』に整理されている。このレポートにはネット世論操作がターゲットにする四つの脆弱性があげられている。
・少数民族の存在。少数民族を先導し暴動や分断などを起こさせることが可能である。
・内部分裂国内に少数民族がなくとも思想や宗教の違いを通じて内部分裂させることができる。
・他国との緊張関係国家間の緊張の高まりはネット世論操作のチャンスとなる。
・脆弱なメディアのエコシステム。ゴシップ紙や陰謀論サイトに人気があり、メディア自身もそれを受け入れる倫理的な弱さがある状況である。
他国との緊張感の高まりを背景とした
国内の対立の激化、そしてそれを煽る
脆弱な倫理基盤のメディアというのが狙い所というわけだ。
同様の指摘が『
民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道』(スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジラット)にも見られる。
同書では、”これまでの独裁政権についての研究からひとつ明らかになった共通点があるとすれば、
極端な二極化こそが民主主義を殺すということだ”と明解に言い切っている。
過剰に敵対勢力を
「攻撃してよい」雰囲気が醸成され、それが対立を激化させ、二極化を進めることになる。