日本の衛星測位システム「みちびき」、ついにサービス開始。“世界最高レベルの精度の測位”への期待と課題

「みちびき」によって何が可能になるか?

「みちびき」は2010年に1号機が打ち上げられ、2017年に2~4号機が打ち上げられた。これにより運用に必要な4機が揃い、試験運用を経て、2018年11月1日より正式にサービス開始となった 「みちびき」の運用が始まったことで、日本においてはビルや山に信号が遮られることがほぼなくなる。すでに「みちびき」に対応したスマートフォンなどの製品は多数出ているため、これまでよりも安定して位置情報を割り出すことができるようになっている。  また、6cmの誤差という高い精度での測位を使えば、自動運転や農機の無人化、ドローンを使った物資輸送といった、さまざまな場面での利活用やイノベーションが期待される。  ちなみに、現在の4機体制の「みちびき」では、米国のGPS衛星におんぶにだっこであり、万が一米国がGPSの電波を止めたり、測位の精度を落としたりすれば、「みちびき」とそのユーザーも大きな影響を受けることになる。しかし日本政府は、2015年に発表した「宇宙基本計画」において、「2023年度をめどに持続測位可能な7機体制での運用を開始する」としており、これが実現すれば「みちびき」単独での測位も可能になる。  つまり、仮にGPSなどが何らかの事情で使えなくなったとしても、日本周辺などに限定されるものの、「みちびき」だけである程度の精度での測位が可能になる。この点は安全保障の観点からも重要と言える。  また、「みちびき」のサービス範囲は日本だけでなく、東アジアやオセアニア地域も含まれるため、海外での「みちびき」を利用したサービス展開とそれによる経済効果はもちろん、国際貢献も見込める。

まだまだ残された「みちびき」の課題

 一方、「みちびき」には課題もある。  全地球規模での測位システムがGPSしかなかった時代は終わり、いまではGLONASS、ガリレオ、中国の衛星測位システムが地球を覆うように飛んでいる。また、その信号に対応した端末も多数販売されている。たとえば現在発売されているスマートフォンの多くが、GPSや「みちびき」と並んで、ガリレオ、GLONASS、北斗にも対応している。そのため「みちびき」がなくとも、安定した測位が可能となっており、「GPSの補完」という目的での存在意義は薄れつつある。  とくにガリレオは、単独でも最大1mの誤差で測位できるため、「補強」の部分でもややお株を奪われつつある。  もちろん「みちびき」には、誤差6cmの精度で測位できるという最大の特長がある。しかし、それを行うためには、「みちびき」からの特殊な信号を受け取ることができる専用の受信機が必要となる。さらに、この受信機はまだサイズが大きく、価格も高い。スマートフォンに積むことはできず、「『みちびき』対応」と書かれてある製品があっても、それはGPSの補完のみの利用が可能という意味であり、数mから数cmでの測位はできない。 「みちびき」の存在意義を確固たるものにし、そしてその特長を活かすためには、数cmでの測位ができる受信機の小型化、低価格化が必須となろう。  そのうえで、高精度の測位を利用した新しい製品やサービスを創り出し、日本をはじめ、東アジアやオセアニア地域の日常の中に溶け込ませていくことができるかも重要である。すでに、前述のようなさまざまな分野での利活用が考えられてはいるが、その実用化のためには、宇宙分野とそれらの分野との密接な協力や、法整備、規制緩和も欠かせない。 「みちびき」はかねてより「大きな可能性がある」、「イノベーションの源泉」などと呼ばれてきたが、本格運用が始まったいまこそ、本当にそれだけの価値があるのか、そしてその可能性を最大限に伸ばし、実際の製品やサービスにつなげることができるかどうかが試されることになる。 <文/鳥嶋真也> 宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。 Webサイト: http://kosmograd.info/ Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info) 【参考】 ・「みちびき」によるサービス開始について|みちびきについて|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府(http://qzss.go.jp/overview/information/qzss_181101.html) ・みちびきとは|みちびきについて|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府(http://qzss.go.jp/overview/services/sv01_what.html) ・みちびきの必要性|みちびきについて|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府(http://qzss.go.jp/overview/services/sv02_why.html) ・What is Galileo? / Galileo / Navigation / Our Activities / ESA(http://www.esa.int/Our_Activities/Navigation/Galileo/What_is_Galileo) ・11月1日、「みちびき」サービス開始記念式典を開催|イベント/利用実証|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府(http://qzss.go.jp/events/ceremony_181105.html
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。 Webサイト: КОСМОГРАД Twitter: @Kosmograd_Info
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