「基地負担の軽減」!? 言うこととやっていることが違う
県民葬で安倍首相の追悼文を代読した管官房長官
県民葬に参加していた野党議員に、菅氏への怒りの声について聞いてみた。「魂の叫びではないですか」と答えたのは、立憲民主党の辻元清美国対委員長だ。
「県民葬で、そういう声を誰も言いたくはないと思います。しかし言わざるを得ない状況に沖縄を追い込んでいる。翁長雄志前知事がなぜ命を縮めたのかを、沖縄の県民はよく分かっているのではないでしょうか。安倍総理は来るべきだったと思う。
(追悼文で「基地負担の軽減」と言っていますが)全く『基地負担の軽減』にはなっていない。辺野古に最新鋭の新基地を作るわけだから、言っていることと真逆ですよ。私は『矛盾している』と思うし、『詭弁だ』と思います」
また、追悼の辞を菅氏に代読させた安倍首相に対しても、辻元氏は「あきまへん」と批判した。
「(翁長前知事の県民葬に)安倍総理は来るべきでしたよ。沖縄に来るのが恐かったのではないですか。それで総理大臣は務まりません。来ていただきたかった」
県民葬参加を終えて囲み取材に応じていた共産党の志井和夫委員長にも同じ内容の質問をすると、こう答えた。
「政府は『負担軽減』『県民に寄り添う』とおっしゃるが、『実態は違うのではないか。実際に起きていることは新基地建設ではないか』という思いが、県民の皆様には広くあるのではないでしょうか。200年も持つ新基地を辺野古に作ることは『基地負担軽減なのか?』ということではないでしょうか」
「基地負担の軽減」や「翁長前知事の功績」というリップサービスはしても「辺野古反対の民意を無視して工事強行」という安倍政権の姿勢は、辺野古新基地建設阻止の意向を持つ玉城デニー沖縄県知事が誕生しても見直される気配は全くない。
「経済か平和か」の二者択一を迫られてきた沖縄の歴史に終止符を
県民葬の実行委員長をつとめた玉城知事
地元紙の報道によると、菅氏が代読を終えて会場に向かって会釈した時に、玉城知事は目を閉じたまま膝の上で固く拳を握って礼を返さなかったという。会場が騒然となる前、県民葬実行委員長を務めた玉城知事は、翁長前知事の生い立ちから現在までを辿った式辞を述べていた。
「(前略)基地問題では、辺野古に新基地を造らせないことを県政運営の柱に掲げ、埋め立て承認の取り消しなど、あらゆる手法を駆使して新基地建設の阻止に取り組まれ、国と対峙しながらも沖縄の民意を強く訴え続け、多くの県民の共感を得ました。
一方で、米国や国連に足を運び、沖縄に米軍基地が集中している現状を国際社会に訴えるとともに、全国知事会を通じて日米地位協定の改定を国に求めるなど、基地負担の軽減にご尽力なさいました。
翁長さんは、県民が自ら持ってきたわけではない基地を挟んで、『経済か平和か』と二者択一を迫られてきた沖縄の現状に終止符を打つため、『イデオロギーよりアイデンティティを大切にしていこう』と訴えた。その思いは私たちの胸の奥に強く刻まれている」
しかし、こうした翁長前知事の基地負担軽減の訴えを一顧だにせず、「辺野古が唯一の解決策」として新基地建設を「粛々」と進めてきたのが、安倍政権で「基地負担軽減」担当を務める菅官房長官だった。かつて翁長前知事は菅氏との面談で、沖縄返還前の米軍圧制の象徴であるキャラウェイ高等弁務官に菅氏を例えた。
「米軍の軍政下で、キャラウェイ高等弁務官が『沖縄の自治は神話だ』と言いました。官房長官から『粛々』という言葉が何度も出てくると、キャラウェイ高等弁務官の姿と重なるような感じがします」(2015年4月の発言)。
県民葬の後、玉城知事は宮腰光寛沖縄担当大臣に続いて野党国対委員長との面談をこなした。その後、県庁内で記者団の取材に応じ、「基地負担の軽減」を口にした菅氏の代読についてこう答えた。
「具体的に基地問題を解決したいと言うのであれば、辺野古の新基地建設反対という県の取ってきた行動、私がそれを引き継いでいること、それは県民の投票結果からも明らかだということを伝えていきます。今後、改めて安倍首相と話をさせていただく機会をつくってほしい」
かつての米軍圧政と同じように「沖縄の自治(民意)」を認めようとしない安倍政権と玉城知事との初対決は、県民の怒号の洗礼を受けた“和製キャラウェイ”こと菅氏に対する知事の無言の抗議という光景からスタートした。