若獅子寮新設は埼玉西武ライオンズに何をもたらす? 潮崎哲也二軍監督を直撃

失敗しなければ、前に進めない

「失敗するところが見たい」と語る潮崎監督

――一軍とファームでは、マネージメントの仕方は変わってくるものですか? 潮崎:ファームと一軍では絶対に違いますね。球団自体が育成をしっかりしようとしていますし、ファームでも育成が一番大切だというところを大きく打ち出しています。一軍というのは育成よりも勝つことが優先ですし、そこが一番大きな違いですね。 ――ファームと一軍の間で選手が入れ替わることで、マネージメントに影響が出たりはしないんですか? 潮崎:それは別にないですね。個人のスキルアップというのが一番の課題なので、やることは変わらないというか、試合に出たときの経験になってくれればいいなと思います。イースタンリーグにおいては、毎年、埼玉西武ライオンズと北海道日本ハムファイターズの2チームが最下位争いをしてるんですよ(苦笑)。ただ、悪いことではないと思います。勝ちにこだわりながらも、ヘタクソな人間、これから経験を積まなきゃいけない人間を試合に出している現状があるうえで、そういう形になっているので。 ――単純に「ファームの順位が高いから、育成ができている」というわけではないんですね。 潮崎:結局、ファームでも勝とうと思って、ギリギリで一軍から漏れた選手を試合の最後まで出せば、勝つ確率は大幅に上がってくるんですよ。でも、2年後、3年後を考えたときには、やっぱり若い未知数な人間を試合で見てあげないと上達しないですよね。どれぐらい失敗するんだろう、と。 ――指導者としては「失敗」するところも見たいものなんですね。 潮崎:むしろ「失敗してほしいな」という感じですね。失敗することで「こうやったらダメなんだな」というのを体で覚えてもらいたい。そうすることで指導するほうも、「じゃあ、しっかり練習しような」と言えますし、失敗するほうが選手との絆も深まるんですよ。選手が成功だけしていたら、「だって、これうまくいったじゃないですか」とコーチ陣が深く入っていけないんですよね。失敗することで一体感が出てくる。失敗しないことには前に進みませんよね。ファームにおいてはどんどん失敗してもらいところです。 ――また、若手とベテラン選手では接し方も変わってくるのでしょうか? 潮崎:年齢によって置かれている立場が違いますからね。高卒1年目の選手と10年目の選手だったら、やはり首がかかった10年目というのは必死にやっているので、失敗することなく成績を求めたいです。若い選手には失敗してもいいから、どんどんチャレンジしなさいという形で指導していきます。立場によって、指導の仕方は全然違ってきますね。 ――マネージメントする立場として、若手とのコミュニケーションで心がけていることはありますか? 潮崎:こちらから声をかけていかないと、なかなか入り込んできてくれないという部分もあります。なので、何気ないところから、声をかけるように心がけています。

「指導哲学なんてありませんよ」と笑いながら挙げてくれたのは「挑戦者精神」

――指導者としても長いキャリアをお持ちですが、あえて指導者としての哲学を語るならば? 潮崎:いや、そんな堅苦しいことは……(笑)。ファームでは「失敗を恐れずにチャレンジしよう」というのは口酸っぱく言っています。強いて指導哲学を言うなら、「挑戦者精神」ですかね。じっとしていたら、新しいものは何も生まれてこないので、立ち止まることなくチャレンジしていこうと。 ――また、指導する際に「これはしないように気をつけよう」と思っていることはありますか? 潮崎:プレーの批判はいいけど、人間的な批判はしてはいけないと常々思っていますね。 ――選手のモチベーションを維持するうえで悩むこともありますよね。 潮崎:やっぱり、球団内に70人近くの選手がいて、一軍とファームにそれぞれ30〜40人いるわけですから。チームに40人の選手がいたら、試合に出られる人数は限られていきます。「どうして俺を試合に出してくれないのかな……」という選手もいますよ。どうしても下向きになってしまう選手が出てくるので、どうやってモチベーションを上げようかといろいろ考えますね。 ――そういうときは積極的に声をかけるんですか? 潮崎:そうですね。「最近、なんで調子悪いね〜ん?」とか、くだけた言葉で。 ――伸び悩んでいる選手に対して、こうしてほしいという思いは? 潮崎:うまくなりたいという気持ちを積極的に出してほしいですね。与えられた練習だけで「あ〜疲れた。今日は終わり」とするのではなく、自分から今なにをしたらいいのか考えながら、練習に取り組む精神力を持ってほしいです。 ――選手のほうから「監督、どうしたらいいですか?」と声をかけてくることもあるんですか? 潮崎:技術的な面ではたまにありますけどね。私には野手の人間は聞いてきませんが(笑)。投手はたまに「あのプレーどうでした?」とかありますね。 ――指導する側からすると、そうやって声をかけられるのは嬉しいですよね。 潮崎:そうですね。当然コーチには聞きに行くんでしょうけど、自分がうまくなりたいと思っているからこそ、誰であろうと声をかけるんだなと。「監督はサイドスローだし、自分もそうだから、ちょっと聞いてみよう」とか、それは嬉しいもんですよ。
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