財政破綻した夕張市の「高校魅力化プロジェクト」って何だ!? かつて炭鉱を支えた人々の「一山一家」の思い

全国の公立高校で“魅力化競争”が始まった

夕張駅

2019年3月で廃線となる、夕張駅~新夕張駅間を結ぶ夕張支線

「ここには希望がない」と、かつては職員でさえも自嘲気味に話していた北海道・夕張市(人口約8200人)――。  353億円の負債を抱えて財政再建団体の指定(2007年、2010年の法改正で「財政再生団体」と名称変更)を受けてから10年が経った。その夕張市で、地元唯一の高校である夕張高校の「魅力化プロジェクト」が注目を浴びている。  高校の「魅力化」といっても、公立高校は都道府県が担うもので、制度上は市町村がその運営にかかわるものではない。しかし、高校が地域で果たす役割は大きいことから、地方の市町村にとっては「死活問題」とばかりに“魅力化競争”が始まっているのだ。  そのきっかけとなったのは、島根県立隠岐島前高校(島根県海士町)の「島留学」の成功からだ。離島にある人口2300人の海士町のこの高校は全学年で90人いない状況から、2010年に魅力化プロジェクトを実施し、生徒数を増加させた。  小規模高校ならではの少人数教育、学習センター(塾)による個別指導、地域の課題解決学習「地域学」の導入などを町ぐるみで展開したのだ。この取り組みは『未来を変えた島の学校』(山内道雄ら著 岩波書店刊)に詳しい。

財政破綻の町のクラウドファンディングが、目標額を大幅に超えた理由とは?

夕張高校

2017年度の入学者数は、定員40人のところ20人となった夕張高校

 北海道夕張高校も同様に、入学者数が減少。2017年度の入学者数は定員40人のところなんと20人。これでは統廃合の対象になりかねない。また北海道独自の、他校からの出張授業などで過疎地の小規模校を存続させる「地域キャンパス校(地域連携特例校)」になりかねないとの危機感から、「夕張高校魅力化プロジェクト」がスタートした。  このプロジェクトは、高校生が月額3000円で通える「公営塾」の設置、「キセキの授業」、「グローバル人材の育成」などがプログラム化されたもの。しかし夕張市の財政が厳しいことから、その資金700万円のガバメントクラウドファンディングを呼びかけた。すると、その目標額の3倍を超える約2400万円が集まったのだ(336%の達成率)。  ふるさと納税では大人気の夕張市。しかしそれは返礼品の夕張メロンを目当てにした応募が多いためだ。今回のガバメントクラウドファンディングでは、夕張メロンをもらえるわけではない。それにもかかわらず、目標を大幅に超えたのはなぜなのか? 「かつて炭鉱全盛期には12万人いた夕張市民が、いま全国に散らばっている。いざというときの助け合いの精神が根づいているのです」とその理由語るのは、魅力化プロジェクトにかかわる本田靖人夕張市議会議員。夕張市には「一山一家」(いちざんいっか)という言葉がある。 「一山一家」とは何か。かつて炭鉱は、そこで働く男たちだけでなく、集落や家族も含めて一つの共同体として成り立ち、家族のようにして互いに助け合い、強く結びついていた。その姿勢は今でも変わらないというわけだ。
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人材育成が夕張の未来を作る
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