暑さ・寒さは「人権問題」。学校の温熱環境を検討する必要性
自治体を対象に環境・エネルギー政策のコンサルタントをしている田中信一郎さん(地域政策デザインオフィス代表理事)は、避難所としての利用に限らず、子どもたちの教育環境を改善するためにも、自治体が温熱環境についての意識を変えるべきだと語る。
「根本的な問題は、学校の温熱環境についての理解が、首長や議会、教育委員会に欠落していることです。それなしに、断熱工事は進みません。まずは、自治体の教育委員会で、体育館を含めた『学校の温熱環境』を検討することが重要です。その際、学校の温熱環境が、子どもたちの学習能率を向上させるとともに、子どもの人権を守ることになるという理解が必要です。検討の際には、建物の温熱環境の専門家を入れることが重要です」
田中さんによれば、温熱環境の改善について知事や教育委員会の意識が高い長野県では、温熱環境の専門家が教育委員会のアドバイザー的な立場に就任しているという。
「スフィア基準」と呼ばれる、災害や紛争などの被災者への人道支援の際に最低限守るべきとされている国際的な基準がある。人道援助を行うNGOと国際赤十字運動が始め、各国政府や国連機関を巻き込んでまとめられたものだ。
スフィア基準によれば、難民や被災者の居住環境は、「快適な温度、新鮮な空気、プライバシー、安全と健康を確保できる十分な覆いのある空間を人々が有している」ことと記されている。
このような基準がつくられた背景には、避難する人が暑さ、寒さに耐えなければならないことは人権問題である、という国際的な認識が共有されていることを示している。
日本では避難所に限らず、日頃から「暑さや寒さをガマンするのは普通のこと」という認識があり、それが「人権問題」であるという感覚は薄い。しかし、日々の生活や職場、教育環境を改めて見つめ直し、温熱環境を改善していけば、避難時の環境を良くすることにもつながる。
東日本大震災の時に「難民キャンプよりもひどい」とさえ言われてきた日本の避難所の状況を少しでも改善するために、自治体は根本的な意識改革をする必要があるだろう。
また住民の側も、「なぜ体育館の断熱などにお金を使うのか?」と批判するのではなく、自治体の政策を後押ししていく姿勢が求められている。それが緊急時に避難所となり、自らの命を救うことになるかも知れないのだから。
◆ガマンしない省エネ 第5回
<文/高橋真樹>
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。環境・エネルギー問題など持続可能性をテーマに、国内外を精力的に取材。2017年より取材の過程で出会ったエコハウスに暮らし始める。自然エネルギーによるまちづくりを描いたドキュメンタリー映画
『おだやかな革命』(渡辺智史監督・2018年公開)ではアドバイザーを務める。著書に『
ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)『
ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)ほか多数。