「避難所にエアコンさえ入れればよい」というわけではない
暑さ、寒さ対策といえばすぐにエアコン設置が取りざたされる。もちろん、緊急でエアコン設置を急ぐことは大切だが、単に避難所にエアコンさえ入れれば暑さ、寒さの問題を解決できるわけではない。
ひとつは、大災害のときは電気が止まる可能性が高く、そうなるとエアコンがあっても役に立たなくなってしまう。実際、9月6日に起きた北海道胆振東部地震では、全道がほぼ2日間にわたって停電になった。もし真冬に同じような状況が起きていたら、多くの人が寒さで体調を崩したり、亡くなったりしたはずだ。
もうひとつは、著しく低い建物の断熱気密性能を高めることだ。体育館などの断熱気密性能は「ほぼない」と言っていい。たとえエアコンを設置したとしても、快適ではないうえに、効率は悪くなり光熱費ばかりがかかってしまうことになる。
まず冷房では多くの冷気(暖気)がすき間から抜けていってしまう。効果を上げようと強く運転すると、吹出口付近が不快になり、窓際ではちっとも涼しくないという温度ムラが起こりやすくなる。
暖房の場合はさらにひどく、エアコンはたいてい建物上部に設置されるが、暖かい空気は上にあがるため、強く運転すればするほど、頭の方だけ熱くなり、足元はむしろ寒くなるといった現象が起きる。これは、暖気が建物の上のほうから抜けていくと、代わりに下のほうから冷気を呼び込んでしまうためだ。
断熱性能を高めることで、エアコンの効果は飛躍的に高まる
そこで、避難所にエアコンを設置する際に、断熱気密性能を高める改修工事も行うことが推奨される。それによって、避難所としての環境を向上させるだけでなく、普段使用する子どもたちの健康状態を守る役割も担うことができる。
もっとも早くできてかつ効果的な断熱対策は、最も熱の出入りが大きい窓まわりの対策だ。特に、窓の割合が大きい教室などは内窓を設置することで大きな効果を発揮する。内窓は窓の内側にもうひとつ窓を設置するもので、二重窓とも呼ばれる。可能であれば、サッシは熱伝導率の高いアルミではなく樹脂にして、ガラスも2枚のペアガラスにすれば効果は高まる。
内窓設置の予算がどうしても取れない場合は、せめて窓の内側に断熱効果のあるスクリーン(空気層のあるハニカムスクリーン)を設置すれば一定の効果が望める。内窓にしてもスクリーンにしても、すべての窓に設置するのが望ましいが、優先順位としては、夏なら南側と西側、冬なら北側を先に設置したい。
内窓以外ですぐにやるべき対策は、夏なら窓の外側にすだれなどを設置して、直射日光を入れない工夫を、冬ならすきま風を防ぐために隙間テープなどで気密性を高める工夫をするといい。いずれも低予算でできるのですぐにでも実施したいところだ。
窓の割合が低く大空間のある体育館では、さすがに窓とすき間の対策だけでは効果が少ない。特に夏の暑さ対策としてやらなければいけないのは、屋根の対策だ。環境建築を広めている建築家の竹内昌義さんは、体育館の屋根の上に断熱層を設け、その上にもうひとつ屋根を作る案を提案している。
また、体育館に限らず抜本的な対策ができるのであれば、ある程度の予算をかけて、建物全体を断熱材でくるむ外断熱工事を行うことをお薦めしたい。快適性がさらに向上するだけでなく、建物自体の老朽化を遅らせることができるので、自治体としては一石何鳥にもなる効果的な政策だ。
エアコンの効率がアップし、光熱費が削減することはもちろん、避難所として使われる際に停電でエアコンが動かなくなった場合でも、すぐに命にかかわるような事態は起こりにくい。