今回の北海道大停電は、
電力の調整能力が破綻した為に生じています。調整能力が十分ならば、負荷を切り離しながら電力網の安定を維持し、経時変化を落ち着かせてから給電域の拡大に転じ、被害を局限できました。この
ダメージコントロールの失敗は2度とあってはなりません。
最大の対策は調整電源として
天然ガス複合火力(NG GTCC)、石炭ガス化複合火力(IGCC)の分散設置でしょう。LNG GTCCは石狩湾新港1~3合計出力1.7GWeとして2019年から2030年にかけて運開予定です。これらは前倒しされるべきでしょう。一方で、これで集中電源依存が更に進みます。
石狩湾新港1のかわりに奈井江1~2が休止(事実上の廃止)予定ですが、奈井江火発は分散・調整電源として旧式石炭火力にも関わらず今回活躍しました。また奈井江火力が休止すると、石狩炭田が全滅します。この
奈井江火力をIGCCとして再整備すればどうでしょうか。IGCCならば熱効率50~60%と天然ガス火力並に高効率で、しかも出力調整・負荷追従が可能です。IGCCは、日本が世界に10年先行していますが、このままでは追いつかれてしまいます。世界最先端が、
政策の誤りであっという間に転落した太陽電池の悪夢の再来となりかねません。奈井江IGCCは、
技術水準の向上、地域産業振興、送電網の分散・安定化とたいへんに益が多いです。
また、北海道は
コールベッドメタン(CBM)を豊富に含む炭層に恵まれており、旧炭田ならば何処からでもメタン(天然ガス)を豊富に産出できます。石炭時代にはCBMはガス突出事故や爆発、炭坑火災を起す悪魔のような存在でしたが、現代では地中の採掘困難、採掘不可能な炭層を資源化する
実用化技術です。既に合衆国を始めとする世界ではシェールガス以前にとっくに実用・商用化されており、日本は資源量の見積もりは終えており
きわめて有望であることが判明しているものの、
「常敗無勝」エネルギー政策の為に大きく取り残されています。北海道で特に有望なのは
夕張炭田で、ここは
CBMが他の炭層の三倍含まれているとされています。
CBMの採掘は、炭層をボウリングし(パイプを打ち込み)、炭酸ガス(二酸化炭素)と窒素を注入することによってメタンガスをおし出します。この為合衆国では、炭酸ガスが有価資源として取り引きされています。日本でも経産省で炭酸ガスの地層処分と天然ガス採掘の一挙両得として報告されています。(参照:
「二酸化炭素炭層固定化技術開発」評価資料 平成20年7月29日経済産業省 資源エネルギー庁 資源・燃料部石炭課 株式会社 環境総合テクノス)
夕張からパイプラインで需要地まで天然ガスを輸送する、または夕張で山元発電して送電することで、分散・調整電源として活用できます。夕張には過去のインフラが残っていますので、それほど難しくはありません。
これらは北海道電力単独事業でなく、国庫補助によって「常敗無勝」国策の失敗によるツケを地域に返すことも出来ます。
これらたったの三つだけでも随分と将来の見通しは明るくなります。
かつて、石炭鉱業整備事業団(後に石炭鉱業合理化事業団)として、零細の弱小炭鉱を買い潰して閉山旋風を巻き起こした組織がありました。大失敗の国策により結果として多くの炭坑マンを殺してきた(典型事例が北炭夕張ガス突出事故*)スクラップ・アンド・ビルド政策の実行組織です。新エネルギー総合開発機構(NEDO、現在では新エネルギー・産業技術総合開発機構)と名を変えていますが、第一の役務は旧産炭地のお葬式です。大手銀行からの出向者がこの第一の役務を担っており、当人が涙ながらにその実態を語っていました。第二の役務は、NEDO助成金の運営で、これは電力からの出向者が実務を担っており、板挟みでたいへんに苦労されています。
日本の「常敗無勝」エネルギー政策の特徴としてかつての太陽電池のように
産業として成立寸前の技術を放り出して枯らしてしまう悪弊がありますが、特に
国内炭がからむと前向きの投資をしない悪弊があります。
絶滅危惧状態の炭坑マンからは、かつて経産・エネ庁(資源エネルギー庁)が殺戮してきた炭坑が、CBMや白亜紀メタンで宝の山に変わることが、エネ庁にとって存立に関わる「あってはならないこと」なのだろうとまで酷評されています。結果として日本は資源としての価値が皆無の海底メタン(メタンハイドレート)には投資し、資源価値の高いCBMや白亜紀メタンの実用化には徹底して後ろ向きと言うおかしなことを続けています。現在、CBMや白亜紀メタンは、鉱山のお風呂沸かしに使われている程度です。誠にもったいないです。
福島核災害に結実し大失敗に終わった原子力偏重・核燃料サイクル政策と石炭・天然ガス政策という二大「常敗無勝」エネルギー政策による最大の被害者は北海道電力であり北海道民です。電力マンと話すと、北電は気の毒、東電は許せないという言葉を30年前から必ず耳にします。異口同音に同じ言葉が出てくるので、相当酷いなと私は考えてきましたが、実際に調べてみると確かに酷いものです。「常敗無勝」国策のツケは北海道にという、屯田兵時代から変わらぬ行動原理を感じます。
このような無意味なことは、先に記述した、たった三つの大した金額のかからない政策転換で払拭できる可能性があります。
大したお金はかかりませんし、地域の復興に直結します。また北海道電力、道民にとっては電力インフラの安定化、冗長性の確保と言う点で益があります。そして、泊発電所の行く末とはなんの干渉もしません。むしろ、送電網の安定化と言う点で泊発電所にとっても多いに役に立ちます。
「過去の行動を踏襲する他、脳がない」とは日本の軍隊と言う官僚機構を分析し、酷評した合衆国によるものですが、そのような悪弊はいいかげん捨てるべきでしょう。
*参考文献
地底の葬列―北炭夕張56・10・16(1983年) 小池 弓夫
pp.51- 「北炭労働運動百年史の栄光と悲惨」 北海道 炭鉱汽船㈱百年史編纂(四) 大場, 四千男; OHBA, Yoshio 2011-09-01
pp.37~「北海道炭鉱汽船㈱夕張鉱業所の発達と夕張新鉱ガス爆発」 北海道炭鉱汽船㈱百年史編纂(1) 大場, 四千男; OHBA, Yoshio 2011-03-01
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』シリーズ2原発編-4
<文/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定