今回の震災と大停電からは、大きな教訓が幾つも得られています。
最大のものは
北海道電力の送電網が抱える脆弱性です。北海道電力は
常敗無勝の国策エネルギー政策に翻弄されてきた経緯があり、
原子力、石炭火力と言うベースロード電源向けの発電施設が発電容量の大部分を占めます。結果として、旧式の石炭火力を出力調整し、数少ない石油火力と水力を負荷追従出力としています。
苫東厚真1,2,4号機は、北海道電力にとって安価な海外炭(外国産の石炭)を用いることを前提に建設された初の石炭火力で、北海道電力にとって最大の稼ぎ頭です。その為定検周期も長く、福島核災害前から最優先で運転されてきた発電所です。そして、南早来変電所は、苫東厚真からの電力を道東、道央、道南、道北へと送る為の結節点となっています。
現在、泊発電所は、適合性審査に合格しておらず、その見込みもありません。従って、泊発電所は「発電所」と名のついた何かであって、発電所ではありません。いわば、一切役に立たない何かのガジェットに過ぎません。
泊と言う大型ベースロード電源が欠けてすら
ベースロード電源偏重によって北海道電力の負荷調整能力の弱さは目立っています。また、
需要が少ないにもかかわらず大型電源への偏重が目立ちます。結果として、胆振が最大の弱点となり、そこが地震の直撃を受けた結果、送電網が崩壊しました。胆振(南早来、苫東厚真)に次いで、
双葉(双葉、西双葉)も弱点となっています。
北海道電力は、古くは大失敗に終わり多くの死者を出した国内炭スクラップ・アンド・ビルド政策、次いで福島核災害を引き起こした原子力政策によって石炭火力、原子力偏重の電源構成となり、
天然ガス火力の導入で大きく劣後しています。また、漸く着手した
石狩湾新港天然ガス火力も今回の大停電には間に合わず。2030年の完成時には、電源の集中を更に促進することになります。なお、石狩湾新港1号機の運開と入れ違いに奈井江石炭火力の廃止が予定されていますが、奈井江石炭火力は旧式ながらも分散電源として今回、電力網の復旧と維持に大活躍しています。また、奈井江火力が廃止されると、小規模ながら存続してきた露天掘り炭田である石狩炭田は全滅することになります。
今回の地震と大停電では
負荷追従・調整出力を担う天然ガス、石油火力の不足と
過度の電源・変電設備集中が大停電の最大の原因となっています。そしてそれによる
原子力・核施設の外部電源喪失を防ぐことが出来なかったこと、
原子力・核施設の存在が緊急時に送電網を守ることへの大きな妨げとなった可能性があることの三つが大きな教訓となっています。
加えて、大停電によって
自治体設置の放射線モニタリングポストの多くが機能を喪失したこと、
泊発電所の外部電源喪失が周辺自治体に伝えられなかったことなど
多重防護の第4層と第5層の機能不全も起こりました。これらはきわめて深刻なインシデントです。インシデントは教訓とし、二度と起こらないように将来に活かさねばなりません。
更に、今回の地震では、
狩勝幹線で275kV送電鉄塔一基の異常と
岩知志線で66kV送電鉄塔二基の倒壊が生じています。
これまで北海道電力は、”
泊発電所3号機所内電源系統及び電力供給系統について平成25年8月13日 北海道電力株式会社” という資料の17ページにおいて送電鉄塔の耐震性について下記のように示しています。
○これまで、北海道において発生した平成5年1月の釧路沖地震(震度6)、平成15年9月の十勝沖地震(震度6弱)などの強い地震においても送電鉄塔の倒壊被害は発生しておらず、上記「電気設備防災検討会」の評価のとおり、送電鉄塔は十分な耐震性を有していると評価している。
○送電鉄塔については、敷地周辺の地盤変状による鉄塔基礎の安定性への影響を評価し、盛土の崩壊や地すべり、急傾斜地の崩壊に対して、鉄塔基礎の安定性に影響がないことを確認している。(図-16)
(平成24年2月(泊幹線、後志幹線、茅沼線、岩内支線及び泊支線))
(平成25年5月(京極幹線))
今回の地震で、これらの前提は
崩れました。同資料で、福島核災害の発端となった
夜の森27号鉄塔倒壊の理由は特異なものとされてきましたが、66kVではあっても
鉄塔が地震で倒壊したことは事実で、
狩勝幹線No.52鉄塔の基礎が地滑りにより損傷の恐れを生じていることも事実です。
事実の分析と対策は必要と思われます。
以上6つの他に多くの教訓を残していますが、今回は泊発電所が冷えきっていたこともあり、重大インシデントである外部電源の長時間喪失にも関わらず甚大な核災害へ拡大することはなく、復旧に要する資源を核災害が吸い尽くしてしまうと言う福島核災害で生じたことは避けられました。まさに不幸中の幸いでしたが、得られた教訓はたいへんに貴重で、九電力すべてがこの教訓を最大限活かさねばなりません。