北海道電力は今回の震災を教訓として「常敗無勝国策」から脱却せよ

北海道電力は、泊発電所への給電を最優先にしていた!?

 泊発電所は、適合性審査がきわめて難航しており、この先最短でも1年間は適合性審査合格が得られる見込みはありません。したがって現在、原子炉は空となっており、核燃料はSFP(使用済み核燃料プール)の中で冷却されています。泊発電所は、停止後既に6年経過しており、使用済み核燃料(SF)は十分に冷えています。ですから、素人考えでは、どうせ非常用ディーゼル発電機(DG)が6基もあるし、仮に全電源喪失しても30日程度はSFPは沸騰しない(参照:原子力規制委員会 定例記者会見2018年09月12日泊発電所3号機 所内電源系統及び電力供給系統について・平成25年8月13日 北海道電力株式会社)のだから、泊を切り離してしまえば良いとも考え得ます。  泊幹線と後志幹線、茅沼線を送電網から切り離し、苫東厚真抜きで道央の送電網を最低限度維持し、北本連系線を始め手持のあらゆる発電所を総動員で送電網の復旧に努めれば、6日のうちにはほぼ全道での送電が回復していたかもしれません。何故そうしなかったのでしょうか。  答えは、原子力安全の柱である多重防護を維持するという理由で、泊発電所が存在する限り、絶対にそれは認められないからです。すなわち、結果は最悪のものとなりましたが、泊への送電を死守しようとした中央給電の判断そのものは、妥当だったと言えます。

原子力安全の基本に立ち返れば妥当だった北海道電力の判断

 前回お話しました、原子力安全の柱である多重防護を構成する安全の5つの段階を再度記します。   1.異常発生の防止(設計、点検、品質保証、運転)   2.異常の拡大の防止(止める、固有安全性)   3.事故時の影響の緩和(冷やす、閉じこめる)   4.シビアアクシデント(SA)対応(ベントなど、緊急時対応)   5.サイト外の緊急時対応(原子力防災)  多重防護の大原則は、「前段否定の論理」であって、相互に完全に独立しています。多重防護の第一層である「異常発生の防止」のために、原子力発電所への外部電力供給は、そこに原子力発電所や原子力・核施設がある限り絶対に途絶えさせてはいけません。このため中央給電司令所は、泊発電所への給電を最優先に確保しなければなりません。震災当時、泊発電所の巨大蓄電池である京極揚水発電所が二基とも点検・故障で休止中であったため、道央の送電網を泊ともども維持せねばならず、その為に破損した苫東厚真1を運転し続けたものと考えられます。  残念ながら苫東厚真1は、それほどもたずに故障により自動停止し、京極揚水も使えない為に多重防護の第一層は破れ、泊発電所は外部電源を失いました。この時点で多重防護の第二層に相当する非常用DGが起動し、泊発電所は、所内電源で必要な電力を確保しています。その後、当日中に最優先で外部電源による給電が再開されています。  この際、生き残っていた道央の送電網の維持苫東厚真1の安全確保泊発電所への送電確保がどの程度の影響を与えたかは公表されねばなりません。  なお、もしも6基ある泊発電所の非常用DGがすべて起動できなかった場合は小型ガスタービン発電機、電源車の順に多重防護の第2層が機能し、それでも給電できなかった場合は、多重防護の第3層に該当する消防車による注水となります。多重防護の第3層までであっても原子力・核施設にはそれだけの備えが要求されます。とてもお金と人と手間を要します。多重防護の第4層と第5層には更に多くのお金と人と手間を要します。それが原子力・核技術の特徴であって、省くことは絶対に許されません。  なお今回の震災で泊発電所に生じた様々なインシデントは、今後の教訓となることが多数あります。

「不幸な偶然」は本当に重なったのか?

 電力に関する知識のある方々が、今回の北海道大停電では、いろいろと不幸な偶然が重なって大停電となった、あの設備が稼働していれば、この設備が稼働していればという発言をしています。不幸な偶然が重なって大停電に到ったことは事実です。しかし、9月はもともと発送電施設の定期点検、修繕が集まる時期です。したがってそれらの「たら」「れば」想定には、技術者のスキル向上の為の思考実験と言う点を除けば、今回の電力事故を考える上であまり意味がありません。  北海道電力では、夏季と冬季が電力需要のピークとなり、特に最需要期は冬季です。この為4月から6月と8月盆明けから11月までの電力需要の閑散期に発電施設、送電施設の休止と点検、修理、修繕を行います。事実、今年も8月盆明けから火力発電所の休止がはじまっており、京極揚水発電所も2基とも点検・修理入りしていました。  ただでさえ脆弱な北海道電力の送電網が、更に脆弱となっていたのです。そこのタイミングで最も脆弱な部分を大きな地震が直撃しました。結果として対処が出来ず、全道停電した訳ですが、地域独占企業としての十電力にはそこまで対処できる責任が求められています(但し、電力自由化によってその責任範囲は今後の議論を要します)。  なお、泊発電所も基本的に春季と秋季に定検入りしており、仮に福島核災害の無かった“世界線(SF用語)”であっても9月には原子炉が止まっている可能性があります(但し、泊の定検は主として春季に集まっている。参照:「泊発電所定期検査の実績 北海道電力」)  今回、最も影響が大きかったのは京極揚水が2基とも停止中であったことです。事実上、泊発電所専用の蓄電池である京極揚水が2基とも停止中であったことには強く疑問が持たれます。  これが一基でも稼働してい「れば」、泊発電所を数時間から1日、道央の送電網から切り離し、必要最低限の発電を京極揚水で行いつつ泊への送電を維持し、その間に道央の送電網を建て直すことが出来たのではないかということは、今後の教訓の為にも解明されるべきでしょう。  いずれにせよ、事実として最も電力網が脆弱な定検シーズンに、北海道電力最大のアキレス腱である苫東厚真発電所と南早来変電所が最大震度7の大地震に見舞われた訳です。そして、送電網に原子力発電所や原子力・核施設がある限り、事故対応の人的物的資源が原子力発電所、原子力・核施設に大きく吸い取られることが東日本大地震に引き続き示されています。これはきわめて重要な教訓です。
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震災と大停電から得られる6つの教訓
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