元トラックドライバーが解説する「過積載トラック」の危険性と、危険なのになくならない理由

ドライバー不足により昨今注目されているフルトレーラー

ドライバー不足により、昨今注目を集めているフルトレーラー。しかし、この危険性はドライバー自身も認識するのが難しい

 今月8日、千葉県の県道で緩やかな下り坂を走行していたトレーラーが、青信号の交差点を左折した際に横転し、信号待ちをしていた軽自動車が下敷きになる事故が発生。軽自動車は原形が分からないほど変形し、乗っていた3名が死亡した。  事故を起こしたトレーラーの最大積載量は29トン。ドライバーは、そこに鉄くず37トンを積んでおり、以前から過積載で走ることもあったと供述したという。  現在、日本には、多種多様なトラックが日本の生活と経済を載せて走っている。その割合は、実に国内の貨物輸送全体の約9割。道路からトラックが消える日は、地球から人間がいなくなる日といっても過言ではないほど、我々の日々の生活に必須な乗り物だ。  いわずもがな、トラックのほとんどは乗用車よりも馬力が高く、頑丈にできているため、双方で事故を起こすと、乗用車のほうにより大きな被害が出る。  しかし、そんな危険をはらんだトラックと日夜肩を並べて同じ道路を走る割には、トラックがどういう仕組みで動き、どういう危険性を伴うのか、また、トラックドライバーがどういう状況下で仕事をしているのか、ほとんど知らないという人が大半だろう(※ドライバーについては以前にも少し執筆しているので参考にしてほしい)。  そこで今回は、過積載から見る運送業界の実情と、トラックの性質や危険予測について、2回に分けて紹介していこうと思う。

いかつい外見の反面、繊細な運転スキルを要するトラック

 実のところトラックには、見た目の頑丈さとは裏腹に、非常に繊細な運転スキルを要する。  余談かつ、誠に勝手な個人的見解だが、この「見てくれに似つかわしくない繊細さ」は、そのトラックを操る中身のドライバーにも同じことが言えると思っている。筆者が今まで出会ってきたトラックドライバーは、そのほとんどが見た目のインパクトからは想像できないほど、純朴でセンシティブな心の持ち主だった。  そんな彼らが走らせる繊細なトラックは、内輪差や死角、車体の長さや積み荷の状況などを常に気にしながら運転する必要があり、1つでも怠れば安全な運転はできない。  また、空荷(荷台に何も載せていない状態)の際のブレーキにおいては、通っていた教習所の教官が「あと2mm踏んで」と表現するほど敏感で、いつもの靴以外で運転したり、靴紐が緩んだりしているだけで感覚が狂う。トラックは、荷物を積んだ状態を基準にブレーキが設計されているため、空荷時のブレーキの効きが怖いくらいにいいのだ。  筆者が乗っていたのは、平ボディ(通称「平」)というタイプのトラックだった。トラックの種類については、次回詳しく説明するが、平には、クレーンではないと載せられないような荷物を積むことが多く、筆者も例に違わず、得意先の自動車工場から父親が経営する極小工場に、クレーンで積んだ金型を運んでいた。手で辛うじて運べる重さのものもあったが、ほとんどは300kgから10tにまでなる「鉄の塊」ばかりだった。  こうした荷物のトラックへの積み込みは、単に奥から順番に載せればいいものではない。1日に行う引取り・納品の順番や荷物の大きさによって、積み込む位置を考える必要がある。  中でも熟考すべきは、やはりその荷物の「重さ」だ。  例えば運転席に近いところに重い荷物を載せると、トラックの前方に比重が傾き、走行中、前方へつんのめる可能性が生じたり、急ブレーキを踏んだ時に、その荷物が凶器となって運転席に襲い掛かってきたりすることもある。  逆に運転席から遠いところへ重い荷物を積んでしまうと、今度はシーソーの原理で運転席が持ち上がる危険性が生じ、少しの段差で一気にハンドルを取られることもある。この状態で急勾配の上り坂を上がる時ほど、心臓が早打ちすることはない。  こうしたことから、筆者個人的には、トラックは「運搬用のクルマ」ではあるが、「運搬に適しているクルマ」ではないと、ヒヤヒヤするたびに思っていた。
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元運転手だからわかる過積載トラックの挙動
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