「紙オムツ」の30~60%は、プラスチックと高吸水性ポリマー
大人用紙オムツの需要は、高齢化にともなって年々増えている
「介護施設などで大量に排出される使用済み紙オムツの処理が介護職員にとって大きな負担になっている」として国土交通省は、紙オムツを粉砕して下水に流すことを検討し始めた。人口減少で下水道施設に余裕が生じるため、そこに紙オムツを粉砕して流すことを受け入れれば「少子高齢化社会に貢献する」と考えたのだ。
しかし、紙オムツは紙だけでできているわけではなく、その30%~60%はプラスチックと高吸水性ポリマーだ。全世界が、海を汚染するマイクロプラスチックの削減を考えている今、紙オムツを下水に流してもよいのだろうか……。
高齢化の進展で大人用紙オムツの需要は伸びている。ドラッグストアの売り場にはさまざまな種類の大人用紙オムツが並ぶ。2016年に生産された紙オムツは乳幼児用が139億枚なのに対し、大人用は74億枚。しかし、大人用紙オムツの需要は今後さらに増加することが見込まれている。
未使用の大人用紙オムツは約50gだが、尿などの排泄物を含んだ使用済み紙オムツの重量は4倍になるといわれ、重い紙オムツをまとめてごみに出す作業は介護職員にとって重労働。
そこで、低賃金で仕事がきついため人員確保が難しいとされる介護職員の負担軽減策として、「紙オムツを下水に流す」という提案が出てきたのだ。
下水道事業にとっても、人口減少によって下水道料金の収益が下がり、加えて下水管等の設備・施設の老朽化が進み、新たな収益事業が検討課題になっている。そのため、少子高齢化社会に貢献しながら下水道事業の新たな展開として「紙オムツを粉砕して下水道に流す」方法が考え出された。
マイクロプラスチックの流出を防ぐ方法は、使用をやめるしかない!?
大人用紙オムツの処分は、各施設にとっても悩みの種だ
EUは、「2030年までに使い捨てのプラスチック容器包装をやめる」と宣言している。世界中がマイクロプラスチックによる海洋汚染にどう取り組むかを模索している時に、紙オムツを破砕して下水に流す検討をしている日本。地球環境問題に後ろ向きな姿勢が問われそうだ。
国交省は「破砕して下水に流しても下水処理場できちんと処理でき、川や海を汚染することはない」と説明する。これに対し、廃棄物問題に取り組む「容器包装の3Rを進める全国ネットワーク(3R全国ネット)」は次のような懸念を示している。
「雨水を一緒に流す合流式下水道の場合、雨が降って下水があふれ出したときに破砕紙オムツが海へ流れ出すのではないか」
「下水に流した紙オムツは施設内で完全に除去できるのか。プラスチックの微細な破砕物が処理場のフィルターをくぐりぬけて、川や海に流出するのではないか」
また、国交省は粉砕した紙オムツを含んだ下水汚泥を農業用肥料として使う案も示しているが、農業問題の専門家は「下水汚泥は重金属なども含んでいるため、肥料には向かない。まして紙オムツのプラスチックを含んでいるものを農地に入れることはできない」と指摘している。