漁獲枠削減で一本釣りの「大間のまぐろ」が激減。水産庁は多くを沖合の巻き網漁に割り当てた!?

大間漁業協同組合

大間漁業協同組合。正組合員350人超、このうち半数がマグロ漁師だという

「ここのマグロは一筋縄ではいかねえんだ。北海道の釣り船やソ連の延縄船団なんかの仕掛けをくぐり抜けてきたしぶといヤツばかりなんだ。だからとれたら本当に大したもんだど」  娘の登喜子(夏目雅子)にこう熱く語るのは漁師・房次郎(緒形拳)。青森県大間町を舞台に、漁師の世代交代をテーマにした映画『魚影の群れ』(相米慎二監督作品 1983年)のワンシーンだ。   黒いダイヤと呼ばれるクロマグロ(通称:本マグロ)。1匹1億5540万円(2013年)といった値段で取り引きされ、高値で争われるマグロの初競りは年始の風物詩になっている。その主役が青森県大間町だ。  本州最北端にある大間町が面する津軽海峡は、黒潮、対馬海流、千島海流の3つの海流が流れ込むため、良質のプランクトンが生息。イカ、サバを主食するマグロは水温が低くなる秋から冬にかけて上質な脂がのる。出荷される30kg以上のマグロは地域団体登録商標となった「大間まぐろ」というブランドネームで市場に出回ることになる。  さらに、市場での評価が高いのはそれだけではない。広範囲の沖合の海域で魚群を追い漁業網で捕獲する巻き網漁とは違い、その多くは沿岸漁業で一本釣り漁を行う。  そのためマグロに傷がつかず、魚が弱ってしまう前に血抜き生〆作業を施すため、鮮度を保ってマグロを出荷することが可能になっているのだ。その漁師たちの命をかけた一本釣りの迫力は相米慎二監督作品『魚影の群れ』(1983年)で見ることができる。

減らされていく大間漁協のマグロ漁獲枠

 この夏、「大間まぐろ」に関するいくつかのニュースが話題になった。 ●6月25日には、沿岸漁業で水揚げする大型の太平洋クロマグロに対し、水産庁が7月1日から都道府県別に設ける漁獲枠をめぐり、大間町を含む沿岸のマグロ漁を営む全国の漁業者ら約650人が「漁民共同行動」を東京・霞が関で行った。 ●7月20日には青森県大間町観光協会は、新たな漁獲制限が7月から始まり、マグロを確保できる見通しが立たないため、2001年以来毎年開催されてきた10月7~8日に予定していた「大間マグロ感謝祭」を中止すると決めた。  いったい何が起きているのか? キーワードは漁獲枠だ。  太平洋クロマグロは大型魚(30kg以上の親魚)が激減。資源管理のための漁獲規制が決まった2014年の国際会議を受けて、水産庁は海洋生物資源保存管理法で定める基本計画を改正し、罰則付きの漁獲上限を定める漁獲可能量(TAC)制度を適用した。  問題の今年度(2018年7月~2019年3月)の沿岸漁業の漁獲枠は733トン。361トンが配分された青森県が割り当てた大間漁協の漁獲枠は166トンだ。大間漁協の漁獲は昨年実績で240トンであり、昨年の約7割に制限されたことになる。過去5年の漁獲平均である194.8トンも下回っている。
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漁獲枠が「大手資本」の巻き網漁に……
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