デタラメなデータで強行採決された高度プロフェッショナル制。忘れてはならない第196回国会の異様さ「5~6月」編

高度プロフェッショナル制度を巡る攻防

 後半国会で大きな争点となったのは、高度プロフェッショナル制度だ。  裁量労働制の拡大はデータの不備で撤回されたにも関わらず、高度プロフェッショナル制度に関しては、どのようなデータの不備があろうとも、頑なに今国会で成立させる姿勢を示した。  当初、労働者からのニーズが有るとされていたものの、 “ニーズということであればですね、私どものほう、これ、あの、実際、いくつかの企業と、あるいは、そこで働く方からですね、いろんなお話を聞かせていただいているということであります。”加藤勝信 厚生労働大臣(自由民主党)――5月9日 衆議院厚生労働委員会  結果的には、ヒアリングはわずか12名を対象に行われただけだった、ということが発覚した。(参照:高プロのニーズ聞き取りについて、加藤厚生労働大臣が1月31日に虚偽答弁を行っていたこと:法政大学キャリアデザイン学部上西充子教授のYahoo個人記事)  後に、安倍総理は労働者のニーズではなく、産業競争力会議で意見があったものだと述べている。 “高度プロフェッショナル制度はですね、産業競争力会議で、経済人や学識経験者から制度創設の意見があり、日本再興戦略において、とりまとめられたもの。”安倍晋三 総理大臣(自由民主党)――6月25日 参議院予算委員会  いずれにせよ、なぜここまで強硬に採決を急いだのか、という理由は明白だろう。  また、この間「ご飯論法」と言われる、加藤厚労大臣の質問に答えない姿勢も話題を読んだ。(参照:「朝ごはんは食べたか」→「ご飯は食べてません(パンは食べたけど)」のような、加藤厚労大臣のかわし方:上西充子教授のYahoo個人記事

怒号の中の採決

 高度プロフェッショナル制度の採決における異様さの一つに、立法事実たるデータがほとんどデータの体をなしていなかったということがあげられる。  衆議院の委員会採決の朝にも新しいデータが提出されるという有様だった。 “これは、私のきょうの資料の二ページ目と三ページ目につけました。この資料自体、きょう出てきた数字によって、新たに午前中出されたこの数字によって変わったんですよね。”岡本充功 衆院議員(国民民主党)  当日朝に修正した資料への対応に右往左往する始末で、挙句の果てに、修正したデータの誤りを指摘されている最中に委員長が討論を打ち切るという暴挙に出た。 “三十分近く延びているのに何で合計が変わらないのか、ここ、ちゃんと説明してくださいよ。一番上が変わらない理屈がわからない。ちゃんと説明してください、政務官。”岡本充功 衆院議員(国民民主党) “既に持ち時間が終了いたしております。加藤厚生労働大臣。”高鳥修一 厚生労働委員長(自由民主党) “じゃ、最後、簡単に申し上げますが、今政務官から申し上げた四つの数字ですね、全体から見た下の四つの数字が違っていると。 私たちが出したデータで、要するに、ふえているものと減っているものがあるわけですから、平均が同じになっても別におかしくないということであります。”加藤勝信 厚生労働大臣(自由民主党) “数が変わっているんですよ。何事業所調べたかという数が変わったんでしょう、サンプルが。”岡本充功 衆院議員(国民民主党) “既に質疑時間が経過をいたしております。岡本充功君の質疑はこれで終了いたしました。以上で内閣提出法案及び修正案の質疑を終局することに賛成の諸君の起立を求めます。”高鳥修一 厚生労働委員長(自由民主党)  この経緯は過去に記事でまとめている。(参照:自民党はデータと事実を捨て、近代国家を放棄する覚悟があるか ― 高度プロフェッショナル制度の委員会採決を巡って:読む国会)  高度プロフェッショナル制度事態の問題点は、様々に指摘されているとおりだが、それ以上に法案成立に至る過程は、およそ近代国家とは思えないものだったことを指摘しておきたい。

罰則付き、残業時間の上限規制

“罰則付の時間外労働の上限規制や中小企業における60時間超の時間外労働の割増賃金率に対する猶予措置の撤廃、雇用形態間における不合理な格差の解消に向けた同一労働同一賃金の法整備など、連合が求めてきた事項が実現する点は評価できる。”連合・逢見直人事務局長(参照:働き方改革関連法案の可決・成立に対する談話 | 連合ダイジェスト)  働き方改革法案として可決した「残業時間の上限規制」に関しては画期的であり、三六協定に対しても規制をかけるものだ。  また、同一労働同一賃金に関しても、評価する声は大きい。  あまりにも高度プロフェッショナル制度の立法過程がずさんであり、このような画期的な規制が充分に取り上げられることがなかったのは、残念なことだと思う。
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明らかになった「総理発言の影響力」
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