図3:平成20年時点でのPAC-3配備構想(※現在では更に増備が進んでいる)防衛省 弾道ミサイル防衛 平成20年3月より
終末迎撃において国の大部分は「丸裸」~BMDというイタチごっこ
日本は、防衛資源を弾道弾防衛に傾斜配分することによって、弾数の不足や、高射群の不足と言う問題はありますが、
二層弾道弾防衛態勢を整備することは出来ました。
しかし、矛と盾の関係は、イタチごっこになることは世の常です。とくにSDI構想どころかABMの時代から、弾道弾防衛において攻撃側は迎撃手段への対抗手段を容易に出来るものでした。要する資金という点からも攻撃側は圧倒的に有利です。たとえばSRBMスカッドの価格は
一発1億円前後とみられ、MRBMのノドンは
数億円程度とされています。
ノドン一発を迎撃するのに要するSM-3 Blk IAはお値段
20億円とされ
2発40億円です。撃ち漏らせばPAC-3が必要で、こちらは
1発5億円とされています。したがって、数億円のノドン一発を迎撃するのに
最大50億円を要します。要するに、ミサイル本体だけで攻撃側は迎撃側の1/10以下の費用で済みます。
攻撃側の取り得る一つの方法は、単純に
数で圧倒すると言う方法です。これを
飽和戦術と呼びます。ノドンの配備数は10年ほど昔の合衆国中央情報局(CIA)による予想でミサイル200発、移動発射機(TEL)50基程度と言うものがあり、命中精度もCEPが大幅に改善しており、70~400mで諸説あります。ノドンの斉発(同時に複数の砲を発射すること)可能数は、TELの数に依存しており、TELが50基ならば最大
50斉発。
もちろん、実際には半数くらいの25斉発程度が限度一杯の最大でしょう。その後もTELやノドンの生産は継続している訳ですから、10年経過した現在、ノドンとTELがどの程度有るかに拠りますが、仮に25斉発をされた場合、僅か16発のSM-3では最大8発の迎撃しか出来ず、信頼性を考慮しても15発程度のノドンがターミナルフェーズに移行する可能性があります。これをPAC-3で全弾迎撃する事は不可能です。
所詮、ノドンの弾頭は1.2トンの高性能爆薬ですので、戦術的には大きな戦果となり得ませんが、北朝鮮は、日本の核施設を標的に入れているとされています。たとえば稼働中の原子力発電所近傍に着弾した場合、日本の社会はたいへんな恐怖に見舞われます。もちろん、CEPが100~200m程度なら直撃の可能性は低いのですが、原子力発電所が狙われたと言う事実だけでもたいへんに大きな脅威となります。また運悪く至近弾となった場合、大型軽水炉は周辺施設の不具合によって炉心溶融に到る可能性はラスムッセン報告(WASH-1400)で指摘され、スリーマイル島原子力発電所事故に始まり、福島核災害に到るまでいくつもの実例を重ねています。
もしもたいへんに運悪く原子炉に直撃した場合、原子炉は障子紙のように打ち抜かれます。したがって、
「ノドンによる攻撃で原子炉は壊れません。安全です」とは断言できません。少なくとも全原子炉は、弾道ミサイルで狙われたと言う事実一つで長期間の運転不能に陥ります。戦術的には大した戦果は得られなくても戦略的に大きな成果を得うるのです。
ノドンはTELとミサイルが続く限り、移動し隠れながら次発装填により攻撃を継続できますが、イージスMDによるミッドコース迎撃は弾切れです。残りの2隻が出撃してもすぐに弾を打ち尽くす訳には行かず、迎撃は不活発となりかねません。発射前にノドンを破壊すると言う考えがありますが、湾岸戦争でもイラク戦争でもスカッドハントと言う移動発射機狩りが行われましたが、戦果は低かったとされ、TELの破壊はたいへんに難しいと考えられています。
SM-3の弾数が余りにも少なく、すぐに弾切れとなり、終末迎撃は
「点」の守りでしかなく国土の大部分は終末迎撃では丸裸というのが日本の弾道弾迎撃システム最大の欠点です。