大田区が165億円を拠出して買い取った羽田空港跡地の、不可解な利用
これは東京版の「モリカケ問題」だろうか? じつに理解しがたい国有地の売却問題が東京都大田区で起こっている。
5月25日、東京都大田区議会の臨時会で不可思議な議案が可決された。
国とURが所有する旧羽田空港の跡地のうち5.9haを、区費165億円を拠出して買い取るというのだ。不可思議なのは、それを区が区のために使うのではなく、鹿島建設を代表企業とする企業グループ(9社)に貸し出すということだ。企業グループの計画では、跡地には大田区のための施設は建設しない。
この議案に反対した少数派の一人、奈須りえ議員(フェアな民主主義)は「国やURが直接企業と契約すればいい話。なぜわざわざ区を経由するのか。なぜ、わざわざ区は165億円も拠出するのか。いったい誰が165億円と算定したのか」と問題点を指摘する。確かに、素人目にも疑問が残る事案だ。
「区民のため」に積み立てていたはずの税金が、いつのまにか「企業のため」に!?
羽田空港跡地利用の疑惑を追及する、奈須りえ議員
コトの概要をごく短く説明すると、以下のようになる。
かつて羽田空港は現在の位置よりも数百m内陸側の大田区の市街地に隣接していた。その危険性に大田区議会は1973年に「安全と快適な生活を確保できない限り空港は撤去する」と決議。これを受け、国は羽田空港を沖合に移した。その結果、200haという莫大な空港跡地が残った。
この跡地利用を巡って1981年、国土交通省、東京都、大田区、品川区で構成される羽田空港移転問題協議会は「土地は都が取得して、土地の利用計画は大田区の要望を配慮する」と合意。つまり、区が都から土地を無償提供されると想定されていた(もともとは大田区の土地なので)。
1991年以降、区は独自の跡地利用をする前提で、年2億円ペースで「羽田空港対策積立基金」を積み立てていた。
2007年に松原忠義区政が誕生。すると、区の主張は「都が跡地を取得しないなら区が取得する」と方向転換する。
2018年、跡地のうちの5.9haに区費165億円を払っての購入が可決された。
本来であれば、区は土地を取得する必然性はなかった。なぜ、区はわざわざ165億円も払い、それを企業グループに貸すのか。鹿島グループが建設するのが区民のための施設であるのならまだわかるが、建設するのは自動運転や医療、ロボットなど先端技術の企業基地、日本文化の発信基地など、大田区民の生活には直結しないものばかりだ。