今年3月末時点で空港対策積立基金は172億円もあった。そこから、国の土地を買うために165億円が使われる
空港跡地は第1から第3ゾーンに分けられるが、大田区が跡地利用できるのは第1ゾーンの16.5haに限られている。そして、鹿島グループが使う土地はそのうちの第一期事業を行う5.9ha。大田区は3.2haの国有地を88億円、2.7haのURの土地を77億円、合計165億円で購入する。
ところが、この165億円という数字の計算根拠が示されていない。
前述のように、区は跡地利用に「区民のための」多目的広場や科学館などの建設計画を立て、その整備費用として1991年以降、年2億円ペースで「羽田空港対策積立基金」を積み立てていた。
ところが、松原区長が就任した2007年度に突然60億円が、2008年度には80億円が積み立てられ、その額は今年3月末時点で約172億円にも達した。そして165億円が支払われる。これは偶然なのだろうか。なぜ突然基金が増えたのか?
筆者がこのことを大田区空港まちづくり課に尋ねると、回答は「跡地の取得整備のためです」という。まさしく、跡地買い上げのための積立基金の大増額だったということだ。
となると、前述の、都が「跡地を買い上げない」と決めた2008年12月よりも前に、区は跡地を買い上げることを決めていたことになる。
この点を大田区空港まちづくり本部に確認すると、2008年3月に区は「羽田空港跡地利用計画」を作成していて、すでに跡地取得に備えていたことを認めた。
ということは、取得に何億円かかるかの見込みがあったということだ。その計算根拠は? これを尋ねると「資料を探さないと……」とその場での回答はもらえなかった。
交渉や打合せ等についての情報公開を請求するも、「文書不存在通知書」が
奈須議員が情報公開で入手した「公文書不存在通知書」。跡地の取得にいたる一切の交渉が存在していないので、その文書もない、との内容だ
奈須議員も「わからないことだらけです」という。
「広い土地を買う場合は通例、およその価格の目安をつけるため、不動産鑑定士などによる『財産価格審議会』を開くのですが、区はそれも開いていません」
そこで奈須議員は「跡地取得に至る、価格決定に影響する国、都などの行政機関、大臣政党関係者、事業者、専門家、コンサル等々との交渉、打ち合わせ、やりとりの文書一式」を求める情報公開を請求した。すると――。
「驚きました。それら関係者と『交渉、打ち合わせ等を実施していない』との『文書不存在通知書』が送られてきたんです」
ではいったい誰が決めたのか? 筆者はこれも空港まちづくり課に尋ねた。回答は「庁内で土地管理や用地買収をする部署」とのことである。