photo by Ari Helminen via flickr (CC BY 2.0)
7月の西日本豪雨では、中国地方を走るローカル線の多くが甚大の被害を受けた。未だに運転を再開していない区間も多く、芸備線や福塩線など特に利用者が少ない路線では、一時期「復旧されずにそのまま廃止になるのではないか……?」という噂も飛び交ったほどだ。
ところが、そんな苦しむ地方の鉄道に対して、大都市では新路線建設花盛り。8月8日、小池百合子都知事が毎日新聞の取材に対して羽田空港アクセス線など6路線を「条件の揃ったところから進めていく」と早期着工への意欲を見せたという。
また、現在でも相模鉄道本線とJR東日本の湘南新宿ラインや東急東横線への直通化工事も進められていたり、大阪では来年春におおさか東線が延伸開業したりと、地方と大都市での“格差”は鉄道の分野でも開く一方なのだ。
「もちろん新しい路線が開業したらどんどん便利になります。ただ、将来を見通したときに必ずしも手放しで称賛できることでもありません」
この“新路線建設”のムーブメントに、鉄道ライターの境正雄氏はそう指摘する。新しい路線ができれば移動の利便性が増すばかりか、昨今話題の満員電車の解消にもつながるはず。一体何が問題なのか?
「短期的に見ればいいのですが、今後首都圏など大都市でも人口減少が始まります。鉄道は、本来“大量輸送”に適した輸送機関。満員電車はしばしば批判の対象になりますが、ある意味で満員電車こそ鉄道の本領発揮というわけです。人口減少時代に向けてそうした大量輸送機関がどれだけ必要になってくるのか。場合によっては、新しい路線が生まれても結局利用者が伸びず、負債ばかりを増やすことになりかねません」
実際、国立社会保障・人口問題研究所が発表した推計人口によると、2020年代後半からは東京都も人口減少時代に入る。人口が減れば、鉄道の利用者が減るのは当然の理。そうなったとき、新たに建設した鉄道路線が“お荷物”になる可能性があるというのだ。
「鉄道は建設に10年、場合によっては20年単位で時間がかかる。特に都市部では高架もしくは地下に施設を建設せざるを得ず、建設期間もコストも非常に大きなものになるんです。開業から半世紀以上経って構造物の老朽化も進み、さらに輸送量も限界を迎えている東海道新幹線のバイパスとしての中央リニア新幹線のようなケースならいいですが、都市部をさらに便利にするというだけの名目で知事に着工意欲を見せられても、『本当に将来を見据えているのか?』と疑問をいだいてしまいますね」
将来的なことをすべて予測することは難しいが、人口減少に何ら対策が練られていない現状を見る限り、その可能性は決して低くないだろう。