小選挙区制の最大の特徴は、一つの地域(選挙区)から一人の代理人を選ぶことです。
視点を変えれば、その
地域のすべての有権者の意思を一人の代理人が、代表します。その地域のすべての有権者が、その代理人を支持していると見なすわけです。その
代理人を支持しない有権者の存在は、無視されます。
例えば、10万人の有権者がいるA選挙区で、投票した有権者が6万人で、そのうち4万人が与党候補者、2万人が野党候補者に投票したと仮定しましょう。A選挙区の代理人たる当選者は、与党候補となります。この場合、A選挙区10万人の有権者すべてが、与党を支持したことを意味します。野党候補に投票した2万人と棄権した4万人は、衆院での意思決定において考慮されません。すなわち、存在しないものと見なされます。
つまり、小選挙区制は、
選ばれた一人の代理人が「有権者の総取り」をするわけです。
小選挙区制といっても、代理人の選び方は一つでありません。
日本の小選挙区制は、すべて
「単純小選挙区制」と呼ばれます。これは、1位の票を得た候補者が当選する方式です。加えて、一定の得票数(法定得票数)を上回らなければならない条件もありますが、これも本論から外れるので、省略します。
フランス下院のように、小選挙区制であっても、1回目の投票で過半数を得る候補者がいなければ、上位2人による決選投票が実施される小選挙区制もあります。例えば、投票総数10万票で、保守A候補4万票、保守B候補5千票、革新C候補3万5千票、革新D候補2万票だと、A候補とC候補で決戦投票となり、D候補がC候補の支援に回って、C候補が当選することもあります。日本のように、単純小選挙区制だと、A候補の当選となるところですので、議会の構成がずいぶんと変わることになります。
さて、
単純小選挙区制のメリットは、分かりやすいことと、選挙を盛り上げやすいことです。とにかく1票でも多い方が当選するというのは、社会科で選挙制度を学ぶ前の小学生でも理解できるでしょう。また、互角の支持を持つ候補の対決となれば、選挙運動する人も、投票する有権者も、メディアも、みんな盛り上がるのは間違いありません。
デメリットは、民意を反映しにくく、民意と代理人の間にかい離を生みやすいことです。これも例で示しましょう。
ここに、それぞれ10万人の有権者で構成される、10の単純小選挙区があるとしましょう。それぞれA党とB党の候補だけが立候補したと仮定します。
《10の単純小選挙区でかい離が生まれる例》網掛けは当選者です。
いかがでしょうか。当選者数で見ると、A党がB党を大きく上回り、圧勝しています。けれども、得票総数は、B党がA党を上回っているのです。A党の得票総数は、B党の74%でしかありません。加えて、
最大の総数は、棄権者なのです。投票率にすると、62.5%となります。ちなみに、2018年の衆院選の投票率は53.68%でしたので、この仮定が特に低い投票率というわけでもありません。もちろん、この仮定では、選挙区ごとに有権者数が異なる、いわゆる一票の格差もありません。
これは仮定ですが、実際に同様のことは起きうるのでしょうか。
実は、
2016年のアメリカ大統領選挙が、まさにこうした状況でした。得票総数では、ヒラリー候補が上回っていましたが、当選したのはトランプ候補でした。アメリカ大統領選では、州ごとに第一位の候補が、獲得ポイント(選挙人)を総取りします。ヒラリー候補は、カリフォルニア州やニューヨーク州などの勝利した州で、トランプ候補に圧勝しました。一方、トランプ候補は、勝利したほとんどの州で、僅差でヒラリー候補に競り勝ちました。大差で勝っても、獲得ポイントは増えませんし、僅差で勝っても、獲得ポイントを総取りできるのです。
アメリカ大統領選は、50の単純小選挙区で選ばれる代理人が、それぞれの保有ポイントを投じてリーダーを選ぶ仕組みなのです。
これで、単純小選挙区制が、民意と代理人との関係を複雑にし、民意を政治に反映させにくい仕組みと、分かるでしょう。