「猛暑」の中、冷房どころか扇風機すらあまり使わない生活
なだらかな山の向こうに沈む夕日が美しい
荷物を載せて、市街地から匝瑳への帰り道も、車の量が多くてノロノロ運転。コンクリートから這い上がる熱。しきりと続く派手な広告や看板。頭が朦朧としてくる。たまに木陰を過ぎるだけでも救われた気分になり、苦しい息が吹き返すように感じた。
そのうち次第に匝瑳に近づくにつれて車の量が減り、速度が上がり、畑や田んぼが増えてくる。里山の木々が豊富になるにつれ、頭に空気が巡ってきて気分が持ち直し、暑いながらも爽快になってくる。そのうち、ドライブの楽しさが戻ってきた。
都会にいても、木があるところ、川が流れているところには、風が吹く。田舎にいても、幹線道路沿いのショッピングセンターなど、コンクリートに囲まれたところは、気温が高くなる。世の中はこれまで、どこもかしこも「都会化」を目指して突っ走ってきた。風や水の流れなどあまり考えず、コンクリートやビル群を敷き詰めてきた。その結果がこのザマだ。
匝瑳は東京都心部から2時間強の距離にある。山があり、海があり、高いビルは一切ない。仲間の移住者たちは皆、この「猛暑」と言われる時期にも家では冷房いらず。当然、俺も冷房など一度も使わず、扇風機を使うことすら少ない。
匝瑳にずっと暮している人々の家々を見ても、幹線道から離れたところほど、玄関と窓を開けっ放しにしているところが多い。暑い中でも風が抜ければ、心地よいからだろう。
たとえ暑かろうとも、ひと仕事して家に戻ってシャワーを浴びたら風が吹いてきて、それだけで「生きていてよかった、幸せだ~」とつい口から漏れる。ちょいとビールでも開けりゃ極上で、「あぁこのまま死んでもいい!」とまで思う。
人工知能も「地方分散」しなければヤバいと分析している
「たまTSUKI」のジャマイカサーファー。「田舎に散れよ」というのは、ボブ・マーリーが来日した際、詰めかけたファンに言った言葉だとされる
昨年、日立製作所と京都大学がコラボして、政策提言を出した。人工知能(AI)を駆使して、持続可能な日本の未来を探ったのだ。2万通も出たシミュレーションは大きく2つに分かれた。「都市集中シナリオ」と「地方分散シナリオ」だ。
「都市集中シナリオ」では、都市の企業が主導する技術革新が進み、都市へ人口がさらに一極集中して地方は衰退、出生率が低下、格差が拡大、個人の健康寿命や幸福感は低下、となる。
「地方分散シナリオ」では、地方へ人口が分散して出生率が持ち直し、格差が縮小、個人の健康寿命や幸福感も増大する、という。
しかもこの先20年で「地方分散シナリオ」に進まないとどうもヤバイと、人工知能さんが言っているらしい。人口知能に聞かずとも、俺のバーに来てくれりゃ、教えてあげたのによ~(笑)
バーは閉じたが、これからも1人でも多くけしかけようと思っている。「田舎に散ろうぜ、田舎に行くことが世直しになる、アンタも幸せになる」と。あっ、もう一言付け加えようかな。「人工知能さんも言っているんだからさ、間違いないよ~!」と。
3月にバーを閉め、いいタイミングで田舎に来て本当によかった。思い出せば毎年夏は、窓も風もない6.6坪の狭いバーの空間で、大汗垂らしながら仕込みしてたっけな~!
アナタ、キミ、もうそろそろ消費に飽きてない? 田舎に散ろうよ(^^)。
【たまTSUKI物語 第6回】
<文/髙坂勝>
1970年生まれ。30歳で大手企業を退社、1人で営む小さなオーガニックバーを開店。今年3月に閉店し、現在は千葉県匝瑳市で「脱会社・脱消費・脱東京」をテーマに、さまざまな試みを行っている。著書に『
次の時代を、先に生きる~まだ成長しなければ、ダメだと思っている君へ』(ワニブックス)など。
30歳で脱サラ。国内国外をさすらったのち、池袋の片隅で1人営むOrganic Bar
「たまにはTSUKIでも眺めましょ」(通称:たまTSUKI) を週4営業、世間からは「退職者量産Bar」と呼ばれる。休みの日には千葉県匝瑳市で NPO
「SOSA PROJECT」を創設して米作りや移住斡旋など地域おこしに取り組む。Barはオリンピックを前に15年目に「卒」業。現在は匝瑳市から「ナリワイ」「半農半X」「脱会社・脱消費・脱東京」「脱・経済成長」をテーマに活動する。(株)Re代表、関東学院経済学部非常勤講師、著書に
『次の時代を先に生きる』『減速して自由に生きる』(ともにちくま文庫)など。