人魚のモデルになったという説もあるマナティ。その生態は分かっていないことも多い。それだけに保護が求められている。(By Galen Rathbun [Public domain], via Wikimedia Commons)
「コスタリカには、子どもが作った法律がありますよ」
今年訪れた国会で、長く広報担当を務めるリカルド・ルイス氏に近年の興味深い立法例を尋ねると、こう自慢げに答えた。どういうことなのか、当時の報道をもとに真相を探ってみた。
私が毎年1月と8月に企画しているコスタリカ・ピース&エコツアーでは、ほぼ毎回国会を訪れる。コスタリカという国がどうやって運営されているのかを知るのに、もっとも手っ取り早い場所だからだ。内部を案内してくれる担当が前出のルイス氏である。
今年1月に訪れたときも、「最近の環境法制で何か面白い案件はありますか?」というツアー参加者の質問に対して、一瞬考えたのち、冒頭のように答えてくれた。「国のシンボルとなっている海獣は
マナティですが、これは法律で定められています。この法律を起案したのが、当時小学生だった子どもたちでした」という。
その小学生とは、
ファビオラ・サラスさんと
アルデイル・コルテスさん。2009年当時、カリブ海岸に面するコスタリカ・リモン県の中心都市、プエルト・リモンにあるリモンシート小学校の3年生だった。
サラスさんはその時、マナティの生態に興味を持ち、文化祭の発表テーマとして同級生に提案した。それに反応したのがコルテスさんだった。「以前は近所でも、食べたり革製品を作ったりするためにマナティを獲っていました。でも、絶滅に瀕しているという彼女の説明を聞いて……」と、心を動かされた。
調べていくうちにいろいろ分かってきた。コスタリカでは、マナティが近所の海にしかいないこと。妊娠期間は12か月で、4年に1度、たった1頭ずつしか子どもを産まないため、繁殖が遅いこと。調べ始めた3年生の時、すでに近所の海には26頭しか雌がいなかったこと。その生存が主に人間の活動によって脅かされていることなどだ。
ちょうど同じ時、コルテスさんは母親と国のシンボルについて学んでいた。そこで母親に聞いたのだ。「オジロジカが絶滅危惧種で国のシンボルになっているなら、どうしてマナティはそうできないの?」
そこでひらめいたアイデアが、「
マナティの“国のシンボル化”」だった。