その法律、「マナティを国の海棲生物のシンボルとする宣言」第1条は、「我が国の領域内における現存する自然資源の保護に関する
コスタリカの子どもたちの希望と熱意に基づいて、マナティ(Trichechus Manatus)を国の海棲生物のシンボルであると宣言する」と定めている。子どもたちの思いを大人たちが受け止めてできた法律であることをしっかりと明記しているのは、特筆に値する。
第2条では、マナティに関する案件を環境エネルギー省が所轄し、関連する国内法及び国際法との調整に当たることが書かれ、第3条では1995年に制定された環境基本法に基づいて、政府、非政府組織(NGO)、公営及び民間企業はマナティ及びその生息環境についての教育・啓発活動を行わなければならないと定める。
たった3条のみで構成される短い法律だが、国だけでなく民間企業も含めて社会全体にマナティの保護義務を課している。これに伴って、国はマナティの「聖域」を宣言し、管理及び科学的な調査のための観察を除いては干渉してはならないとした。
つまり、この法律は単なる象徴的な文言ではなく、強制力を持った法律なのだ。その適用範囲は示されていないが、前出のアレクサンデル氏は「マナティが食べる水生植物に害を与える(陸地での)パイナップルプランテーションの農薬も重大な問題だ」と主張する。
サラスさんとコルテスさんにとって、自分たちの思いと努力がひとつの法律に結実したことは「心動かされることだった」という。「長い時間かかったので、このプロジェクトは幻と消えるかもと思いました。でも、多くの人のサポートのおかげで、5年間夢を持ち続けることができました」とサラスさんは語った。
子どもたちが発想し、大人たちがサポートして法律をつくりあげ、生まれ育った豊かな自然環境を守る努力に結びつける。国会は後日、この法律の発端となったリモンシート小学校に対し、環境問題に関して際立った貢献を果たした市民・団体に贈る「立法議会賞」と賞金200万コロン(約40万円)を贈呈した。こうした民主主義の懐の深さが、コスタリカをして環境立国たらしめているのだ。
「丸腰国家」コスタリカ 次の戦略 第三回
<文・写真/足立力也>
コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に
『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。